「脱炭素よりコストが勝った日」 物流大動脈が“理想”を拒否――アメリカ反旗と重油執着が突きつける「海上規制の形骸化」
- キーワード :
- 船
世界的な温室効果ガス規制強化のなか、海運では依然として油燃料が多用される。既存船の半数以上がVLSFOを使用し、1億円規模のスクラバー設置も一部で実施されるなど、現実的制約とコストの間で企業は対応を模索している。
規制強化下での油燃料の存続

温室効果ガスの排出規制が世界的に強化されるなか、海運業界も例外ではない。新しいルールが作られるたび、各社は対応に追われている状況だ。国際海事機関(IMO)は、国際海運からの温室効果ガス排出を2050年までにゼロにする長期目標に基づく規制枠組みについて、当初予定されていた施行を2025年11月に1年延期すると発表した。規制が厳しくなる一方で、なぜCO2排出量の多い従来の油燃料がまだ使われ続けているのか、その理由は簡単ではない。
国際海運におけるCO2排出規制は、少しずつ形になりつつある。IMOでは2018年にGHG排出削減への取り組みを公式に開始し、船舶ごとの効率や排出量を評価する仕組みを導入してきた。既存船の燃費や運航効率を評価するエネルギー効率関連条約(EEXI)は2023年から適用されており、大型外航船に燃費規制をかけるのは初めての試みである。燃費実績の格付け制度(CII)は、年間でどれだけ効率的に航行したかを示す指標で、船ごとにAからEまでのランクで環境パフォーマンスが可視化される。
2050年までに国際海運からの温室効果ガスをゼロにする規制枠組みも議論が続く。この枠組みでは、船舶が使用する燃料を排出量の少ないものに転換させ、基準を満たさない船には負担金が課されることになっている。ただし、2025年11月17日の会合では、コスト増を理由に米国側が反対し、施行は1年延期された。こうした経緯を踏まえると、NOxやSOx、温室効果ガスの規制が強化されるなかでも、従来の油燃料が使い続けられる背景には、法令の問題以上に現実的な事情が関わっていることがうかがえる。