「脱炭素よりコストが勝った日」 物流大動脈が“理想”を拒否――アメリカ反旗と重油執着が突きつける「海上規制の形骸化」
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世界的な温室効果ガス規制強化のなか、海運では依然として油燃料が多用される。既存船の半数以上がVLSFOを使用し、1億円規模のスクラバー設置も一部で実施されるなど、現実的制約とコストの間で企業は対応を模索している。
SOx、NOx、CO2への実務対応

海運現場では、排出ガス規制に対応するためにさまざまな技術が用いられている。SOx、すなわち硫黄酸化物への対応では、燃料中の硫黄が燃えることで発生するSOxは、酸性雨や海洋汚染など環境への影響が大きく、抑制策が欠かせない。船舶ではふたつの方法が主に使われている。ひとつは排ガス洗浄装置、いわゆるSOxスクラバーである。スクラバーは排気ガス中の硫黄分を水で洗い流し、高硫黄燃料を使いながらも規制値を満たすことができる。これによりVLSFOより燃料単価が安い場合には、運航コストのメリットが生まれる。初期投資が必要であり、装置を設置するための船内スペースを確保できない場合も少なくない。もうひとつの方法は低硫黄燃料の使用で、VLSFOやより硫黄分の少ない超低硫黄燃料油(ULSFO)など、燃料自体で規制に対応する方法だ。既存の燃料供給インフラで利用できるため、スクラバーを設置する手間をかけずに対応できる点が実務上の利点となる。
NOx、窒素酸化物については、燃焼温度が高いほど発生量が増える性質を持つ。海運では燃料の種類を変えるのではなく、エンジン制御の改善や排気ガスの再循環(EGR)、選択触媒還元装置(SCR)などを活用し、燃焼プロセス自体を調整する方向で対応が進められている。これにより、既存の船舶でも排出量の低減を図ることが可能だ。
CO2に関しては、専用の排出抑制装置はまだ一般的ではない。現場では燃費改善の工夫が中心となる。運航速度を調整して一日の燃料消費量を抑えたり、推進効率の高い船型を導入したりすることで、温室効果ガス排出を減らす努力が続けられている。燃料や装置に頼るだけでなく、運航の方法や船体の性能そのものを活かして排出削減を進める姿勢が、現場では求められているのである。