「ベンツよりBYD優先?」 公金5500億円が“中国EV”を後押し――ドイツ政府が自国メーカーを置き去りにした「禁断の一手」
関税回避と助成活用で拡大する中国勢

欧州連合(EU)は2024年10月、中国からのEV輸入に従来の10%関税に加え、最大で35.3%の追加関税を課した。これに対し、中国メーカーはすぐさまPHVやREEVの輸出を強化し、追加関税の影響を回避しつつ市場の空白を埋める動きに移った。さらに、EUが2026年1月に示した中国製EVの「最低価格」指針は、一見すると安売り防止の障壁に見えるが、実際には一定の利益率を保証した公式な参入許可証として機能する側面がある。
ドイツ政府の新助成制度は、この最低価格による割高感を消費者に直接補填する仕組みとなっており、結果として中国メーカーは関税負担を事実上無効化しつつ、公的資金を活用して販売を加速させる合理的な収益モデルを手にした形だ。
市場の数字にもその動きは現れている。データフォースの調査では、2025年に中国メーカーが欧州市場で販売したEVは約81万台と、前年のほぼ倍に達し過去最高を更新した。市場シェアも3.1%から6.1%へと急拡大し、欧州の勢力図を塗り替えつつある。
上海汽車集団傘下の名爵(MG)や比亜迪(BYD)などは、ドイツの助成金を前提とした戦略的価格設定にシフトしており、EU規制がむしろ彼らに安定した利益と市場浸透の道筋を与える皮肉な結果になっている。ドイツを欧州進出の最大の拠点と見なす中国メーカーの論理は、自国産業を守ろうとする欧州規制を逆手に取り、勢力を強める方向へ進んでいる。
世帯所得が4万5000ユーロ(約824万円)以下の層では、ブランドへの忠誠心よりも、補助金込みの実質価格が購入判断を左右する力は避けられない。新制度はリースも対象とし、36か月の保有義務を課すことで、中古車市場の残価を安定させ、リース料の引き下げも可能にしている。消費者はドイツ製品への愛着と、中国製品が示す圧倒的なコストパフォーマンスの間で揺れ動くが、新助成制度はその決断を加速させるシステムとして機能するのだ。
大衆市場での選択基準が「出自」から「実質価格」へと完全に移行すれば、ドイツの伝統的なブランド価値はかつてない生存の危機に直面することになる。