「転落事故は駅のせい」なのか?――ホームドア未設置を“過失”とみなす日本の安全過熱、欧米比較で考える

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日本の都市鉄道では2024年までに全駅でホームドアが整備され、事故件数は明確に減少した。一方、欧米では既存路線での導入は限定的で、コストや運用を踏まえた判断が安全対策の前提となっている。

海外都市のホームドア導入と選択の条件

フランスの地下鉄イメージ(画像:写真AC)
フランスの地下鉄イメージ(画像:写真AC)

 海外の都市鉄道でも、転落事故や自殺は重要な安全課題として認識され、

「プラットフォームエッジドア(PED)」

はその対策のひとつとして検討されてきた。ただし、導入の位置づけは路線の条件や制度の前提を踏まえた、選択的なものとなっている。

 パリでは地下鉄の自動化が進み、無人運転を前提とする新線や一部路線にはPEDが導入されている。無人運転では、線路への立ち入りなどの異常が発生しても運転士による即時対応ができないため、物理的に侵入を防ぐ設備が有効とされる。また、自動運転では列車の停止位置の精度が高く、PEDを実用的に運用できる条件が整っている。一方で、既存路線すべてに後付けで導入する方針が採られているわけではない。

 北米でも既存駅へのPED設置は検討されているが、全面導入には慎重な姿勢が見られる。検討資料では、一定の事故抑制効果は認められるものの、膨大な初期投資や工期、運行への影響が課題として整理されている。既存路線への後付けでは、駅や車両の条件自体が新たな障壁となる。特に古い地下鉄ではカーブ上のホームが多く、車両との間に隙間が生じやすいため、閉扉時の利用者挟まれリスクが指摘される。また、車両形式が統一されていないことも多く、扉位置や停車位置のばらつきが、ホームドアとの整合を難しくしている。

 こうした課題を解消するには、車両の新造や統一、自動列車運転装置(ATO)などによる停止位置制御の高度化、駅構造の改修も必要となる。その結果、既存路線へのPED設置は単なる設備追加では済まず、車両更新や運行システム、駅改修を含む大規模な投資を伴うことになる。海外事業者の資料でも、こうした条件を踏まえ、既存路線へのPED設置が必ずしも合理的とはいえない場合があることが示されている。

 そのため海外都市では、PEDは転落防止の有効な手段として評価されつつも、コストや運用への影響を含めた総合的な比較を経て、導入範囲や優先順位が決められている。

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