「今から帰ります」その一言が常識に――80年代、駅の公衆電話に行列を作った「カエルコール」を覚えているか

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1985年、NTTが打ち出した帰宅前の一報「カエルコール」は、電話利用を前年度比14%増に押し上げ、情報の先行送信が移動効率と生活リズムを変える契機となった。

カエルコールの登場

昭和イメージ(画像:写真AC)
昭和イメージ(画像:写真AC)

 1985(昭和60)年、電電公社の民営化によって誕生したNTTが打ち出した「カエルコール」のキャンペーンは、社会を変える大きなきっかけとなった。カエルコールとは、帰宅前に外出先から自宅へ「今から帰る」と電話で一報を入れる習慣を指す。帰宅を意味する「帰る」と、動物の「カエル」を掛け合わせた親しみやすい名称は、テレビCMを通じて瞬く間に全国へ浸透した。

 当時、外で働く夫が「男が仕事に出て帰宅時間などわかるか」ということを美学とする風潮があった。しかしこの考え方は、情報を共有して生活全体をうまく回すという流れに飲み込まれていく。

 キャッチコピーの「男のコケン(沽券)か、夫婦の円満か」は、情報を隠すことで保たれる個人の威厳を捨て、情報を先に送って生活を確実なものにする選択を求めた。大きなカエルの背に座ったサラリーマンが電話する姿を覚えているだろうか。あの映像は、移動という行為の中に情報を入れ込む象徴的な光景だった。

 その後、帰宅前の連絡は社会の常識へと定着していった。当時は携帯電話がまだ普及しておらず、東京の駅に置かれた公衆電話の前には、家に電話するサラリーマンの行列ができた。スマートフォンが普及した今、メッセンジャーアプリやメールで連絡を取ることは当たり前だが、その始まりはカエルコールにあった。

 これは、いつ到着するかをあらかじめ知らせることで、家での夕食や風呂の準備といった受け入れ態勢を整えやすくする仕組みとして機能した。移動がもたらす情報の空白を通信で埋めることで、生活全体における時間の無駄を減らしたのである。

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