「今から帰ります」その一言が常識に――80年代、駅の公衆電話に行列を作った「カエルコール」を覚えているか

キーワード :
, ,
1985年、NTTが打ち出した帰宅前の一報「カエルコール」は、電話利用を前年度比14%増に押し上げ、情報の先行送信が移動効率と生活リズムを変える契機となった。

学生と公衆電話

昭和イメージ(画像:写真AC)
昭和イメージ(画像:写真AC)

 一連のキャンペーンは電話を生活の基盤へと近づけ、移動のあり方を根本から変えた。1986(昭和61)年末時点の住宅用電話の普及率は100世帯あたり81.1であり(『情報通信白書』1987年)、約2割の家にはまだ電話が存在していなかった。特に東京の学生や若者の場合、高額な権利金やアパートの設備上の制約により、通信は建物にひも付いた共用のものだった。

 廊下のピンクの公衆電話が鳴れば誰かが出向いて呼び出すという、身体的な移動をともなう通信スタイルが一般的だった時代、環境の厳しさが通信の途絶を招くことも珍しくなかった。

 しかし、カエルコールの成功によって移動中の個人が拠点へつながる必要性が認識され、1980年代末には電話は一人暮らしに欠かせないインフラとしての地位を確立した。これは、通信の主体が世帯という単位から、移動する個人へと移り始めたことを意味する。

 1990年代以降、通信は一家に1台から個人に1台へと分散し、場所に縛られない移動が実現していく。その前段階として、移動中の個人の意思を拠点へと届かせたカエルコールの功績は、今の高度に個人に合わせた移動体験の土台となっている。

全てのコメントを見る