「軽油120円台」でも喜べないトラック業者の苦悩――暫定税率廃止が暴く“どんぶり勘定”の代償
実施されない原価計算

筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)はこれまで、運送会社の原価計算を支援してきた。その過程で、原価算出を妨げるいくつかの障壁に直面している。
ひとつは、金額がグロスで設定されていることによる問題だ。グロスとは、個別の内訳や配分を分けず、総額として一括管理されている状態を指す。自動車保険や貨物保険では、トラック一台ごとの金額が設定されず、法人単位で一括契約している例がある。この場合、車両別の原価を割り出せない。トラックを複数台まとめて購入した際、値引き額が一台ごとに配分されておらず、車両原価を算定できないという相談もあった。
もうひとつは、業務プロセスの不明瞭さがもたらす問題である。自社給油機を設置していながら、車両ごとの給油量を把握していない運送会社があった。事務員の労務費や社内システムの費用を、どのように車両原価へ算入すべきか分からないというケースもある。こうした状況では、正確な原価計算は成り立たない。
これらの課題は、適切な費用按分を設定し、必要な数値を計測すれば解消できる。自社給油機の問題は、車両ごとの給油量を記録すれば足りる。事務員の労務費も同様だ。日々の業務内容を時間単位で把握し、「倉庫業が6割、運送業が3割、残りは来客対応」といった形で按分すればよい。
一方で、原価算出を十分に行ってこなかった経営者ほど、数値の正確さに強くこだわる傾向がある。完全な原価計算を求めるあまり、「原価が把握できない」と結論づけてしまう。
これは運送業に限った話ではない。原価計算の精度は、最終的に経営能力に依存する。経営の基盤が弱い企業が、ある日突然、完璧な原価計算を実現することはできない。まずは60点、70点程度の精度で算出し、業務プロセスの改善や経営水準の引き上げと並行して、精度を高めていくほかない。
一方で、原価計算に取り組む意欲が湧かないという運送会社の経営者も少なくない。国内の運送会社の約8割は、従業員30人以下の中小企業である。こうした企業では、コストを積み上げて運賃を決めるよりも、
「他社がこの水準だから」
という相場感で価格を設定するケースが多い。過去に原価計算を試みた経営者もいるだろう。しかし、荷主から「他社はもっと安い」といわれたことで、算出した原価の意味を見失い、計算を断念した例も聞かれる。