走る時限爆弾「無保険トラック」 安すぎる運賃が招いた安全網の綻び――現場が追い込まれた“2択”の正体

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任意保険に入れない事業用トラックが、物流現場で静かに増えている。2024年度の運送業倒産は328件に達し、保険料は最大2倍に急騰。無保険走行はモラルの問題ではなく、運賃構造と責任分担の歪みが生んだ産業リスクだ。

任意保険が払えない現実

物流トラック(画像:写真AC)
物流トラック(画像:写真AC)

 近年、物流業界で静かに広がっている問題がある。任意保険に加入していない事業用トラックの増加だ。自賠責保険すら入っていない極端な違反を指すわけではない。輸送業務を続けるうえで欠かせないはずの任意保険を維持できなくなった事業者が急増している実態を指しているのだ。

 表面的には経営者の危機感の欠如と捉えられやすい。だが本質は

「個人の倫理観」

だけで片付く話ではない。物流業界全体を蝕む構造的な問題が背景にある。輸送という社会インフラを支えるコストが、現場の努力だけでは吸収できない段階に来ている。

 帝国データバンクの調査では、2025年2月の道路貨物運送業者の倒産件数は20件だった。2024年度は11か月累計で328件となり、前年度の317件をすでに上回った。倒産の増加は一時的な現象ではなくなっている。物流網を構成する企業の体力が底をつき、高止まりが常態化しつつある。

 経営を圧迫している最大の要因は、燃料費と人件費の同時上昇だ。深刻な人手不足と物価高騰が重なり、運送会社の損益分岐点はかつてない水準まで上がった。どれだけ車両を稼働させても利益が残らない仕組みが業界全体に広がっている。輸送機能の持続可能性が根本から揺らいでいる状況だ。

 中小・零細事業者にとって最大の負担になっているのが、

「事業用トラックの任意保険料」

である。保有台数次第では年間で数百万円から数千万円規模に達し、固定費のなかでも経営を左右するほどの比重を占める。

 さらに近年、大手損害保険会社は契約の引受基準を大幅に厳しくした。過去に事故歴がある事業者には、高額な保険料が提示されるか、契約更新そのものを拒絶されるケースが相次いでいる。他社への乗り換えも事実上難しく、

「保険市場からの排除」

が進んでいる。保険料を支払えば資金繰りが破綻し、支払わなければ致命的な事業リスクを背負う。この極限の二択を迫られた末に、やむなく無保険走行という危うい決断を下す事業者が後を絶たない。

 無保険トラックの増加は、現場の規律が緩んだ結果ではない。安全を維持するための適正な費用すら捻出できなくなった物流産業の行き詰まりを浮き彫りにしているのだ。

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