走る時限爆弾「無保険トラック」 安すぎる運賃が招いた安全網の綻び――現場が追い込まれた“2択”の正体

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任意保険に入れない事業用トラックが、物流現場で静かに増えている。2024年度の運送業倒産は328件に達し、保険料は最大2倍に急騰。無保険走行はモラルの問題ではなく、運賃構造と責任分担の歪みが生んだ産業リスクだ。

自賠責では埋まらない賠償リスク

トラックによる事故(画像:写真AC)
トラックによる事故(画像:写真AC)

 無保険トラックを走らせる経営者のなかには、

「強制加入の自賠責保険があるから万が一の際も対応できる」

と説明する者がいる。しかし自賠責保険による対人賠償の限度額は、死亡事故であっても3000万円にとどまる。これは最低限の救済を確保するための制度にすぎない。

 現代の交通事故訴訟では、働き盛りの被害者が命を落としたり、重度の後遺障害を負ったりした場合、裁判所が命じる損害賠償額が

「1億円から数億円」

に達するケースは珍しくない。自賠責保険では到底補いきれない7000万円から数億円規模の差額は、すべて事業者が自ら負担することになる。

 多くの運送会社は極めて低い利益率で経営している。巨額の賠償に耐えられる内部留保を蓄えているケースは稀で、事業を続ける体力は残されていない。その結果、たとえ事故の瞬間まで黒字を維持していた企業でも、一度の重大事故が引き金となって即座に資金繰りが立ち行かなくなる。経営基盤が脆弱な組織にとって、高額な賠償責任は

「事業の消滅」

に直結する問題だ。

 最大の問題は、加害企業の破綻が被害者側への補償を途絶えさせる点にある。企業が消滅すれば、遺族は法的に認められた賠償金を受け取ることができず、救済の道が事実上閉ざされてしまう。ここに深刻な賠償の空白が生じ、事故の余波は当事者間を越えて社会全体の不利益として波及していく。

 安全を担保する仕組みを欠いた運行は、被害者の人生や家族の未来を奪うだけでなく、

「企業としての社会的責任を根本から放棄している」

といわざるを得ない。

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