走る時限爆弾「無保険トラック」 安すぎる運賃が招いた安全網の綻び――現場が追い込まれた“2択”の正体

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任意保険に入れない事業用トラックが、物流現場で静かに増えている。2024年度の運送業倒産は328件に達し、保険料は最大2倍に急騰。無保険走行はモラルの問題ではなく、運賃構造と責任分担の歪みが生んだ産業リスクだ。

保険料急騰と収支均衡の論理

運送業にかかる変動費は年々増加している(画像:写真AC)
運送業にかかる変動費は年々増加している(画像:写真AC)

 損害保険各社が契約を引き受ける判断の根底には、

「収支均衡の原則」

がある。事故発生率の高い事業者が生じさせた損失を、事故の少ない優良事業者が支払う保険料で補填することは、公平性の観点から許容されない。フリート契約における割引・割増制度は、この不均衡を正し、個々の事業者のリスクに応じた負担を求める仕組みとして機能している。

 近年、このコスト構造に拍車をかけているのが、車両の高度化にともなう

「修理費の高騰」

だ。自動ブレーキや各種センサーといった先進安全装備の普及により、衝突事故そのものの発生件数は抑えられる傾向にある。ところが精密機器が集中する車両前面などを損傷した場合、軽微な接触であっても修理費用は以前とは比較にならないほど高額化している。

「事故の頻度は減っても一度の支払い保険金が膨らむ」

という構造の変化が、事業用自動車保険の負担を底上げしている。

 こうした背景を受け、事故歴のある事業者に提示される保険料は、前年の1.5倍、状況によっては2倍近い水準に達することも珍しくない。これは段階的な調整の枠を超え、事実上の契約拒絶に近い厳しい条件となっている。特に資金余力の乏しい零細事業者にとって、この上昇幅は経営を維持できる許容範囲を完全に逸脱している。

 運賃交渉が停滞する一方で、保険コストだけが急激に跳ね上がる現状では、安全対策に投資したくてもその原資を確保できない。車両を走らせなければ収益が得られない以上、急騰する維持費を前にして、保険を解約するか廃業を選ぶかという極端な判断を迫られる事業者が増えている。

 事故リスクを低減させるための制度が、結果として無保険走行という重大なリスクを誘発している現状は、既存の仕組みが現場の経済状況と乖離している事実を示しているのだ。

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