「300kmで十分だ」トヨタがタイで挑む執念の防衛戦――中国EVの猛攻に“聖域”ピックアップは耐えられるか?

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トヨタはタイで新型「ハイラックス」を世界初公開し、年末からBEV生産を開始。販売シェア約40%のピックアップ市場で、中国EV勢の攻勢を防ぐ決定的防波堤として戦略を打ち出す。

航続300kmリアリズム

ソンテウ(画像:写真AC)
ソンテウ(画像:写真AC)

 新型ハイラックスBEVのスペックに対し、市場からは「航続距離300kmは短いのではないか」との指摘も上がる。しかし、これは用途に合わせて最適な動力を提供する「マルチパスウェイ(全方位)」戦略をとるからこそ導き出された合理的な判断だ。300kmという距離は、パタヤなどで見られる乗り合いバス「ソンテウ」や、都市部でのルート配送といった用途には十分な数値である。

 商用利用において、過度な大容量バッテリーの搭載は車両重量を跳ね上げ、肝心の積載能力を損なうばかりか、車両価格の上昇を招いて事業者の採算性を悪化させる。あえて容量を抑えることで実用的な価格帯を維持し、長距離移動や重積載には引き続き自社のディーゼル車を推奨する。

 短距離のルーチンワークにはBEVを、タフな用途にはディーゼルをという使い分けが、トヨタの提示する現実的な理想なのだ。さらに、2028年以降を目途にハイラックスの燃料電池車(FCV)モデルの開発も進めており、これも多様なエネルギーの選択肢を確保する姿勢を象徴している。

 一方で、この防衛戦には克服すべきリスクも存在する。第一に、タイ政府の補助金政策「EV3.5」への対応だ。補助金を受ける条件として現地生産が義務付けられているが、需要の実態がともなわなければ、過剰な在庫を抱えてキャッシュフローを圧迫する懸念がある。第二に、インフラ整備の遅れだ。

 バンコク圏以外での急速充電器の普及は道半ばであり、地方での商用利用には依然として壁が高い。そして最大の脅威は、中国メーカーによる大規模な価格攻勢である。圧倒的な規模の利益を背景に低価格モデルを投入されれば、いかに強固なブランド力を持つハイラックスといえど、厳しい戦いを強いられる可能性がある。

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