「300kmで十分だ」トヨタがタイで挑む執念の防衛戦――中国EVの猛攻に“聖域”ピックアップは耐えられるか?
トヨタはタイで新型「ハイラックス」を世界初公開し、年末からBEV生産を開始。販売シェア約40%のピックアップ市場で、中国EV勢の攻勢を防ぐ決定的防波堤として戦略を打ち出す。
宿敵いすゞとの「競争均衡」

トヨタが2025年末に生産を開始する背景には、最大のライバルであるいすゞ自動車の動向も深く関わっている。いすゞは「D-MAX BEV」を2025年4月に欧州へ投入し、タイ国内でも同時期に生産を開始した。
完成車輸入主導で市場を奪おうとする中国勢に対し、いすゞとトヨタの両社は現地生産を貫く。これにより、タイ国内の広大な部品メーカー網や雇用を自社のエコシステムに囲い込み、国家レベルでの防衛網を構築する狙いがある。
日系メーカーが数十年にわたって築いた産業クラスターは、新参のメーカーが容易に模倣できない参入障壁として機能する。トヨタにとって、いすゞとの健全な競争を維持しながら足並みを揃えて現地基盤を守ることは、タイにおける複占体制をBEV時代へ引き継ぐための必須条件といえる。
トヨタがタイでの実績にこだわる理由は、この国が世界屈指の自動車生産能力を誇っているからだ。タイの年間生産能力は150万台から200万台とされ、世界10位、東南アジアでは最大の43%というシェアを占めている。
そして、生産の約60%は世界100か国以上に輸出されており、ピックアップトラックに限れば世界最大の輸出量を維持している。中国メーカーにタイ国内のシェアを奪われることは、タイにおける生産基盤の減退を招き、世界への供給能力を失うことに直結する。
そもそもタイは、トヨタやいすゞ、ホンダら日系自動車メーカーにとって海外収益の大きな柱である。こうした背景から、タイの自動車市場は日中メーカーのグローバルな生存をかけた直接対決の場として、極めて重要な意味を持っている。