神奈中バス「11路線廃止」の衝撃――日本の中枢に迫る「ドライバー不足」という名の“猛毒”
神奈川中央交通は相模原市緑区で運行する13路線のうち11路線を2027年までに廃止予定だ。平均年齢55歳・給与450万円前後のドライバー不足、1km480円の運行コスト高騰が背景で、地域公共交通の構造的限界を浮き彫りにしている。
郊外バス廃止の現実

モータリゼーションの進展により、自家用車の保有率は急速に上昇している。郊外都市を走ると、1世帯1台の割合も珍しくない。通学では親や隣人が送迎するケースが増え、通勤でも自家用車利用が一般化している。
ラッシュ時の路線バスは本数が少なく、通勤・通学でバスを選択できない状況が広がる。都市部への人口集中や施設の集約により、郊外の枝線の運行本数は減少し、相対的に需要も低下している。
地域公共交通も多様化してきた。自治体主体の乗り合いタクシーや、まちづくり協議会による自主運行など、新しいモビリティ確保の手法が確立しつつある。経営難の路線バス事業者にとっては、非都心部で補助金付きの最低規模運行に切り替え、枝線を中心に自治体や協議会に委ねる方がリスクを抑えられる。
兵庫県では、タクシー事業者によるライドシェアが広がる動きも見られる。全但バス(養父市)は地域住民を一般ドライバーとして雇用し、行政から貸与された白ナンバーのワンボックス車や乗用車で運行する事例がある。こうした新手法により、バス事業者は従来の路線維持に依存せず、柔軟な運行体制を構築しつつある。
今回の路線大幅廃止問題の「本質」は、中山間地域の公共交通維持が、採算性、ドライバー確保、利用者需要の
「三重課題」
に直面している点にある。路線維持は社会的意義がある一方で、経済的負担は大きい。現行制度下ではバス事業者単独での持続は難しい。
「利用者が少ない」
「人材が不足」
「運行コストが高い」
の三条件が揃うと、廃止は避けられない構造となる。新しい手法が登場した今、バスとの役割分担や運行体制の見直しを自治体の地域公共交通活性化協議会で真剣に議論する時期に差し掛かっている。