なぜバスドライバーは「憧れの仕事」から消えたのか? 4000億円赤字が示す“消滅危機”の深層

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減便や路線廃止によって、バスドライバーの不足がついに「顕在化」した。自治体や教習所、求人ポータルサイトも巻き込んだ採用キャンペーンが各地で展開されているが、それだけでは問題の解決には至らない。

バス業界に迫る人材崩壊

大手・中小を問わずバスドライバー不足は深刻(写真:名鉄グループホールディングス)
大手・中小を問わずバスドライバー不足は深刻(写真:名鉄グループホールディングス)

 日本バス協会が2023年10月に国土幹線道路部会へ提出した資料によれば、バス業界は戦後最大の危機に直面している。背景には燃料価格の高騰とドライバー不足がある。2020~2022年度の3年間で、全国の路線バスの累積赤字は4000億円に達した。

 なかでも深刻なのが、人手不足の問題だ。いわゆる「2024年問題」によって、労働時間の制限が加わることもあり、今後さらに逼迫が進むと見られる。

 バスドライバーは2021年時点で11万6000人だったが、2030年には9万3000人にまで減少すると推計されている。一方で、必要とされる人数は12万9000人。3万6000人、割合で28%もの人手が不足することになる。近年、全国各地で減便のニュースが相次ぐようになった。「ドライバー不足」という構造的課題が、もはや目に見える形で表面化している。

 かつてバスのドライバーは、航空パイロットや鉄道ドライバーほどではないにせよ、子どもたちが憧れる仕事のひとつだった。しかし1990年代後半以降、バス業界は規制緩和の影響を大きく受けた。鉄道とは異なり、トラック業界と同様に価格競争が激化。格安の高速ツアーバスが広まり、一方で重大事故も多発した。

 その後、旅行会社が主催するバスツアーには一定の規制が導入されたが、労働環境の過酷さが広く知られるようになった。加えて2024年問題の影響も重なり、多くの事業者が採算確保すら困難な状況にある。

 とりわけドライバー不足の問題は、

「需要があっても供給できない」

という構造にある。乗客が減る以上に深刻な、公共インフラとしての機能不全を招きかねない事態だ。ここでは、こうした危機に対して、事業者や自治体がどのような取り組みを進めているのかを検証する。

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