なぜバスドライバーは「憧れの仕事」から消えたのか? 4000億円赤字が示す“消滅危機”の深層
待遇改善に挑む業界再編

こうしたなか、奈良交通(奈良県奈良市)は2025年7月19日、「女性限定 営業所見学・運転体験会」を開催した。2024年に続き、2年連続の実施となった。会場は自社営業所である。
同社には現在、40人の女性ドライバーが在籍している。新人ドライバーの育成を担う研修指導員や、観光バスなどの大型車に乗務するドライバーもいる。また、子育てと両立しながら昼間だけ乗務する働き方もあり、女性が多様な形で活躍している。
こうした女性向けの取り組みは、奈良交通に限らない。実は2017年には、女性バス運転手協会が設立されている。同協会は、
・女性ドライバーの採用促進
・職場環境の改善
を目指して活動している。バスドライバー不足の解消には、女性の積極的な採用がひとつのカギとなりそうだ。
一方で、構造的な課題の解決には、給与や待遇の見直しが欠かせない。神奈川中央交通(神奈川県平塚市)は、2025年3月16日、従業員の待遇改善を目的に賃金改定を実施した。初任給を大幅に引き上げ、人材の確保と定着を図る。
運転職(新卒養成ドライバーを除く)は、月額22万円から24万5000円に引き上げた(11%増)。整備職(整備士1級保有者)と事務職(大卒)は、それぞれ21万5000円から24万円にアップしている(12%増)。ただし、同社は業界内でも規模の大きい専業バス事業者である。中小事業者が同様の待遇改善に踏み切れるかどうかは不透明だ。
人材確保に向けた動きは地方にも広がる。根室交通(北海道根室市)は、地元だけでは人材の確保が困難と判断。本州で開催される採用イベントに参加し、冷涼な気候や暮らしやすさを訴求しながら、「移住者」としてバスドライバーを募集している。また、奈良交通と同様に、女性向けの体験イベントも実施している。さらに、一定の条件付きではあるが、定年年齢を65歳から70歳へと延長した。
・女性の活用
・待遇改善
・移住支援
など、対策は多岐にわたる。バスドライバー不足という構造的な問題に対し、バス事業者や自治体、業界関係者の模索は続いている。