救急車サイレンに「苦情」 もはや命さえ騒音なのか? 91万件超の出動が示す“共存”と“静寂”のジレンマ

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救急出動は年間91万件超、しかし通報の約7割が軽症または不要案件――高齢化や社会不安の影響でサイレン苦情が急増している。認知性と静音性の両立が求められるなか、各地で可変式サイレンの導入や音環境改善が進む。「サイレン共存社会」構築の最前線を追う。

救急車サイレン苦情増加の背景

救急車(画像:写真AC)
救急車(画像:写真AC)

 東京消防庁への苦情は年々増加しており、そのなかには「救急車のサイレン」に関する苦情も一定数含まれている。これを受け、住民への配慮を最大限にしつつ救助活動を行うため、救急車のサイレンは日々改良が進められている。

 緊急自動車の運用は、「道路交通法」第14条のほか、「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」(以下、細目告示)の第49条や第231条により詳細な基準が定められている。救急車が緊急自動車として走行する際は、

・サイレンの吹鳴
・赤色警光灯の点灯

が義務付けられている。

これには、通行時の事故防止や迅速な搬送のための協力促進が主な理由として挙げられる。東京消防庁は、周囲への注意喚起としてサイレンの吹鳴は必要と考えている。

 一方で、緊急性や周辺の住環境、交通状況に応じてサイレンをオフにし、一般車として移動する場合もある。消防庁関係者は、住民に不要な混乱を与えないようサイレンのオン・オフを判断し、配慮しながら救急活動を行っている。

 東京消防庁が公表した2023年の「救急活動状況」によると、救急出場件数は91万8311件で、前年度より4万6236件増加した。そのうち、軽傷者と判断されたケースは54.2%(41万9723件)、搬送不要とされたケースは15.7%(14万3941件)に上る。

 この数字から、緊急性の高い通報が相対的に少ない傾向が見て取れる。しかし、すべての通報に対し救急車は緊急自動車としてサイレンを吹鳴しながら出動する義務がある。

 一方、75歳以上の高齢者の搬送は全体の34.1%(31万2953件)を占めている。超高齢化社会の進展により、出動件数とサイレンに対する苦情は今後さらに増加する見込みだ。

 これを踏まえ、救急関係者は住民のストレスや疲労を軽減するための対策を一層強化する必要がある。

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