救急車サイレンに「苦情」 もはや命さえ騒音なのか? 91万件超の出動が示す“共存”と“静寂”のジレンマ
救急出動は年間91万件超、しかし通報の約7割が軽症または不要案件――高齢化や社会不安の影響でサイレン苦情が急増している。認知性と静音性の両立が求められるなか、各地で可変式サイレンの導入や音環境改善が進む。「サイレン共存社会」構築の最前線を追う。
救急車サイレンと事故リスク

サイレンに対する苦情の増加は、騒音によるストレスだけでなく、
「近年の社会状況の変化」
も影響していると考えられる。現代は不安感やストレスを感じやすい環境であり、自己コントロールが難しい人が増加していると指摘されている。
東京消防庁が2025年3月に公表した「都民の声」では、770件の意見が寄せられ、そのうち180件(23%)が苦情である。サイレンに対する苦情も含まれ、多くの消防機関で同様のクレームが相次いでいる。通報者以外にも、匿名の第三者からの苦情が多数届いており、ストレス発散目的のケースもあると推測される。
こうした状況を踏まえ、救急活動では騒音対策だけでなく、地域コミュニティーの改善も重要な課題となる。
救急車は大音量のサイレンを鳴らしても衝突事故が発生する。近年の自動車は遮音性が高いほか、エアコンや音楽機器の使用により、すれ違う直前まで外部の音に気づきにくい傾向が強まっている。
このため、衝突事故を防ぐ観点から、夜間の住宅街でもサイレンを止めることはできない。さらに、気づいてもらうためマイクによるアナウンスも実施している。しかし運転中に注意喚起が聞き取りにくいという声も多く、音量の見直しを求める意見も一定数ある。
一方で住宅はオフィスに比べて遮音性が低く、大音量のサイレンが騒音問題になりやすい。また夜間は気温が低く、音波の屈折が少ないため遠くまで音が届きやすい。そのため、一軒家が密集する住宅街近くの主要幹線道路や交差点でのサイレン音は苦情の原因となりやすい。