救急車サイレンに「苦情」 もはや命さえ騒音なのか? 91万件超の出動が示す“共存”と“静寂”のジレンマ
救急出動は年間91万件超、しかし通報の約7割が軽症または不要案件――高齢化や社会不安の影響でサイレン苦情が急増している。認知性と静音性の両立が求められるなか、各地で可変式サイレンの導入や音環境改善が進む。「サイレン共存社会」構築の最前線を追う。
認知性か快適性か揺れる音響設計

山口県下関市や愛知県名古屋市では、状況に応じてサイレン音を切り替えられる救急車を導入している。通常の「通常モード」に加え、「コンフォートモード」も搭載し、音量と音程を抑えたサイレンを鳴らせる。和音やコーラスサウンドを重ね、聴感上ソフトな音質になるよう工夫している。
しかし、現状では交差点などで一般車の認知が遅れる課題がある。このため、赤色灯が目立ちにくく交通量が多い昼間は通常モードを使用している。
一方、海外の緊急自動車のサイレンは認知性が高いとされる。欧州では93~118dBの規定があり、米国では最大123dBの州もある。日本よりも耳に刺さりやすく不安を感じやすい音が使われる傾向がある。
日本でも救急車の認知性向上に向けた研究が進む。広島市立大学では、サイレンの音量と吹鳴方向を手動・自動で制御するシステムの開発が行われている。
一方で、一般車や歩行者との接触事故が多発し、搬送遅延などのトラブルが課題となっている。
また、コンフォートモードは音量が低いため、一般車内で救急車の接近が聞き取りにくくなる可能性がある。これにより運転手が救急車の接近を誤認するリスクが高まる見込みだ。接触事故が起きると、別の救急隊員が出動を余儀なくされ、人員負担が増す問題も生じる。