JR東日本はなぜ「夜行特急」を復活させるのか? 全室個室で青森12時間運行――「常設化」への試金石となるか?
JR東日本は2027年春、改造E657系による全室個室の夜行特急を開始する。テレワーク対応やシニア向けプレミアム車を備え、宿泊費高騰や多様化する移動ニーズに対応。限定運行から常設化を目指すテストマーケティングで、「移動+休息」の質向上を狙う。鉄道の快適性で差別化し、採算性やビジネス展開を検証する試金石となるか。
ウェルビーイング志向の車内設計

従来のブルートレインは「寝台特急」と呼ばれた。特に、あさかぜ型20系客車以降の重装備寝台設備が、このジャンルの標準を確立した。A寝台では、プルマン方式(中央通路で寝台を左右に並べ、昼はボックスシートとして使用)などが広く採用されていた。
しかし時代は「量より質」へとシフトし、人口減少の影響も加わって「北斗星」以降は個室が主流になった。一方で、重装備の寝台設備は清潔感の維持やメンテナンスに手間がかかり、事業者にとって負担の大きい存在になった。その結果、客車の老朽化も重なり、夜行列車そのものが衰退していった。
今回の夜行列車に使われる車両は、全室個室かつフルフラット仕様となっている。深夜帯に快適な睡眠を確保するには、フルフラットな空間と個室による遮音性が不可欠であり、従来型の重装備・開放型寝台はもはや時代遅れといえる。
また、グリーン車中心の設計は、現代の潮流にも合致する。消費者の価値観は「価格」よりも「体験」へと移行している。例えば、全車グリーン仕様の「サフィール踊り子」や、新幹線のグランクラスが好例だ。JR東日本はこれらを通じて、非日常の顧客体験を提供する姿勢を明確にしている。
良質な体験は生活者のウェルビーイング向上にも寄与する。そして、鉄道事業者にとってはグリーン車中心の編成が収益性を高める手段となる。夜行列車の空間は、出張や観光で上質な移動を求める層、富裕層や訪日客の「静かな移動」ニーズにも合致する。多様化する顧客ニーズに対応する柔軟性を持つ戦略といえる。