ガスト店長「年収1000万円」は妥当なのか? 人口減少社会が突きつけるファミレスの存在意義──店長が地域経済のキーマンになる根本理由とは

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すかいらーくHDがガスト店長の最高年収を840万円から1000万円超に引き上げた。人口減少や移動様式の変化で、ファミレスは単なる飲食店を超え、地域生活の基盤となる現場管理の重要性が高まっている。

動かない消費者への供給競争

ファミレスのイメージ(画像:写真AC)
ファミレスのイメージ(画像:写真AC)

 かつての外食産業は、動ける人を主なターゲットとしていた。車を所有し、家族で移動でき、夜間の外出も可能な層である。

 しかし現在、社会の重心は明らかに動かない人へと移りつつある。移動弱者を前提とした生活圏の再設計が進むなかで、飲食・流通・医療・教育といった基盤サービスは、いずれも「供給側が動く」ことを前提とする構造に変わった。

 ファミレスの店長は、こうした動かない生活者に向けて、日常的なサービスを安定的に提供する役割を担っている。提供するのは、食事、接客、安全、雇用など多岐にわたる。これらを複数シフト制で、均質な品質と安全管理を維持しながら運営しなければならない。求められるスキルも、従来の現場力にとどまらない。

・財務管理
・労務管理
・地域事情への理解
・配送効率の最適化
・ICTの活用

までが求められる。このような職務に対して、年収1000万円という報酬水準を適用することは、もはや例外ではない。むしろ次世代の社会インフラにおける人件費モデルとして、標準化すべき対象である。

 一方、地方や郊外の労働市場では、若年層の人材確保が最大の課題となっている。都市部への人材流出を防ぐには、あるいは流出した人材を呼び戻すには、とどまる選択に対する正当な報酬の設定が不可欠だ。

 今回の報酬制度改革には、そうした意図が明確に表れている。ガスト店長の報酬引き上げは、若者にとって地元で生きることが合理的な選択肢になり得るというシグナルである。さらに、交通インフラの空洞化が進む地域では、こうした定着型の生活基盤が、地域の持続性を支える要素にもなっていく。

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