ガスト店長「年収1000万円」は妥当なのか? 人口減少社会が突きつけるファミレスの存在意義──店長が地域経済のキーマンになる根本理由とは
店舗が担う“準物流拠点”機能

すかいらーくホールディングスが打ち出した人事制度改革は、店舗を単なる飲食提供の末端ではなく、地域社会のサブセンターとして再定義する戦略転換ともいえるだろう。店長という役職は、厨房とフロアを統括する従来型の責任者から、より広範な機能を担う現場マネージャーへと変貌しつつある。その役割には、
・デリバリーやテイクアウト拠点としての効率的な運営
・高齢者や子育て世帯の生活圏の結節点としての場作り
・地域に眠る多様な人材の発掘と育成
も含まれる。シニア層や副業人材といった非定型な労働力の活用も、重要な任務の一部となっている。
こうした職責を担う現場管理職に対して、高度なマルチスキルが求められるのは当然である。しかし、これまでの年収レンジ(600~800万円)では、大都市圏の物流センターの現場責任者や大手企業の課長職と比べて、仕事内容に対する報酬水準が見合っていなかった。人材流出の背景には、この非対称性があった。
ゆえに、報酬の見直しは避けて通れない。これは単なる賃上げではなく、職能と市場価値との整合性を回復するための調整である。「高すぎる」といった短絡的な批判は、産業構造の変化を捉え損ねているといわざるを得ない。
今やファミレスは、飲食業という枠を超えつつある。コロナ禍以降に進んだデリバリー需要の急拡大により、多くの店舗は
「簡易型ラストワンマイル拠点」
として機能し始めている。自社で配達員を確保するケースも少なくない。
この機能をECに例えれば地域倉庫、コンビニならフランチャイズ店長、流通業なら小規模物流拠点の統括責任者に近い。ファミレスの店長は、もはや飲食店の責任者ではなく、地域生活インフラの最前線を指揮する“司令官”と呼ぶべき存在だ。とりわけ、
・高齢化が進み移動が困難な住民の多い地域
・公共交通が脆弱でクルマ依存が高い地域
・大型商業施設の撤退で飲食機能に空白が生じた地域
においては、その存在意義はさらに大きくなる。こうしたエリアでは、ガストのようなチェーン店が、事実上の地域セーフティネットの一部を担っている。