「危険すぎるSUV」 子どもの致死傷率82%増――タイヤ破壊テロを後押し? “巨大化”が生んだ代償を考える

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SUVの歩行者致死リスクは小型車の1.8倍──。新たな研究が、環境団体の過激な行動に思わぬ正当性を与えかねない。拡大を続けるSUV市場に突きつけられた、重く高い現実とは。

SUV依存が生む危機構造

キース・ブラッドシャー『SUVが世界を轢きつぶす:世界一危険なクルマが売れるわけ』(画像:築地書館)
キース・ブラッドシャー『SUVが世界を轢きつぶす:世界一危険なクルマが売れるわけ』(画像:築地書館)

 2002年に刊行されたキース・ブラッドシャーの著書『SUVが世界を轢きつぶす:世界一危険なクルマが売れるわけ』(日本語版は2004年)は、SUVの台頭がすでに深刻な問題を孕んでいることを早くから指摘していた。この批判的な視点は、近年話題となったタイヤ・エクスティングウィッシャーズの誕生にも影響を与えた可能性がある。

 著者のブラッドシャーは1996年から2001年まで『ニューヨーク・タイムズ』のデトロイト支局長を務めた。その間にジョージ・ポーク賞を受賞し、ピュリッツァー賞の最終候補にも選ばれている。ノースカロライナ大学とプリンストン大学を経て、1989年に同紙の記者となり、香港支局長なども歴任した。同書は2002年にハードカバーとして発売され、複数の賞を受賞している。

 本書が批判するのは、自動車メーカーがSUVに関する負の情報を意図的に消費者に伝えていない点だ。大型SUVはメーカーにとって最大の収益源であり、通常の乗用車では利益が出にくい。こうした構造のもと、メーカーは広告、ロビー活動、メディア戦略に100億ドル超を投じ、危険性に関する情報の流通を抑え込んでいるという。

 1965年に消費者運動家ラルフ・ネーダーが『どんなスピードでも自動車は危険だ』(日本語版は1969年)を通じて自動車業界の構造を告発した先例を思い起こさせる内容でもある。本書は、産業全体が公共の安全を脅かしている現実を鋭く批判している。

 無論、他人の車のタイヤの空気を抜く行為は違法であり、正当化されるものではない。ただ、環境や交通安全といった観点から、巨大車両の必要性そのものを問い直す時期に来ているのではないか。

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