新幹線、なぜ「1日乗り放題券」がないのか? 今後はあり得る? 高速性と収益性のジレンマを解き明かす

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新幹線は日本の高速鉄道として、国内外で高い評価を受けているが、1日乗り放題券は未導入。その背景には、高コストを支える運行体制や、ビジネス利用が多い現実がある。しかし、将来的には人口減少や閑散期の需要を考慮し、新たな割引モデルが登場する可能性もある。

消費者心理と行動経済学の観点からの考察

新幹線(画像:写真AC)
新幹線(画像:写真AC)

 また、消費者心理と行動経済学の観点から考えると、

・価格設定が与える心理的影響
・新幹線の稀少性と特別感の喪失

がある。なお、行動経済学は、経済学と心理学を組み合わせた学問で、人々が感情や認知バイアス、社会的影響などで非合理的な判断をしがちだと指摘する。

 価格設定が与える心理的影響について考えると、もし常に1日乗り放題券が手に入ると、一定の金額で無制限に乗れるため、利用者が必要以上に移動する可能性が出てくる。

 例えば、「せっかくなのでここまで行こう」と思って遠くまで足を延ばすこともあるだろう。筆者(高山麻里、鉄道政策リサーチャー)も同じように感じることがある。食べ放題に行くと、つい色々な料理を食べ過ぎてしまうことと同じだ。無制限だと、お得感を感じてしまい、行動に出てしまうのが人間の心理である。

 これは鉄道事業者にとっては、予想外の損失につながることになる。消費者は「利用価値を最大化したい」という心理が働き、それが収益に影響を与えるため、鉄道事業者はその行動を抑制したいと考える。

 また、新幹線の稀少性と特別感の喪失についても考えるべきだ。無制限の利用が可能になると、新幹線のプレミアム感が薄れてしまい、ブランド価値に悪影響を与えるリスクがある。鉄道事業者としては、新幹線をある程度高級な商品として維持したいという気持ちがある。

 グリーン車を利用するVIP層や、ビジネス利用者が多く、そのために静かで治安の良い環境を保ちたいと考えている。お金を出さないなら在来線を使い、払うなら新幹線を使ってもらいたいというのが、鉄道事業者の心理だと理解できる。稀少性や特別感が失われることは、ブランディングを損ねることにつながり、現在の状況に影響を与えている。

 欧州の鉄道事例を見てみると、1日乗り放題券が存在するものの、新幹線に匹敵する高速鉄道で同様の事例は少ない。長距離移動を快適に提供するため、欧州では乗客の増加を抑えたいという意図があるのだろう。

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