荷物が届かない、自宅に食料がない! 日本人は「本当の物流危機」を経験すべき――物流ジャーナリストの私がそう考えるワケ

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2024年問題って実は大したことなかったんじゃないの?――。そんな楽観論が広がり始めている。この国は一度本当の物流クライシスを経験しないと、物流の重要性が分からないのかもしれない。

農業と物流が直面する人手不足の壁

物流トラック(画像:写真AC)
物流トラック(画像:写真AC)

 だが、「ドライバーが手伝ってくれないと積み込みなんてとてもできない」という現実は、リンゴ農家だけでなく農業全般や漁業などの1次産業に共通している。

 運送会社はこれまで、荷主側の都合のよい労働力として使われてきた歴史がある。最近では、家具大手のイトーキ(東京都中央区)が運送会社に無償で付帯作業をさせていたとして、公正取引委員会から独占禁止法に基づく警告を受けた。報道によれば、イトーキは積み込みなどの運送以外の業務を無償で強要したほか、繁忙期に

「納品場所以外での作業」

をドライバーにさせ、その残業代も支払っていなかったという。

 これについてイトーキは、

「今回の警告を極めて重く受けとめており、委託先物流事業者との取引適正化に向けた取り組みを全社をあげて推進し、適切な関係の構築を進めてまいります」

とコメントしている。確かに、イトーキのような大企業であれば、こうした問題を是正するのは比較的容易かもしれない。

 しかし、農家となると話は別だ。

 農業は人手不足が深刻で、高齢化もドライバー以上に進んでいる。例えば2023年のデータでは、ドライバーの19.4%が60代以上だが、農業従事者では2020年時点で65歳以上が

「70%」

を占める。こうした状況では、農家もやむを得ずドライバーを「都合のよい労働力」として頼らざるを得ない現実がある。

 地方から関東への青果輸送を担う運送会社A社は、いまだに長時間におよぶ手積み・手卸を請け負い、コンプライアンス違反となる長時間運行を続けているという。

「誰かがやらないと地方からの青果輸送は崩壊してしまいますからね……」

と、A社の社長は苦しい胸の内を語る。

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