「アメリカ = 能力主義」はウソ? 自動車工場の日米比較でわかった虚構と現実
アメリカの自動車工場における「ジョブ型」の実態を解説。アメリカでは職務給という考え方が一般的で、マニュアル通りの仕事をこなす。また「能力主義」が浸透しない理由のひとつは、上司の不公正さにあるという。
ジョブ型雇用の真意
日本の自動車メーカーの強みは現場にあると言われる。「ジャスト・イン・タイム」「カンバン方式」などの生産管理の仕組みは、トヨタを世界一の自動車メーカーに押し上げた原動力として知られている。
では、アメリカの現場はどうだったのか? 今回紹介する篠原健一『アメリカ自動車産業』(中公新書)は、そんなアメリカの自動車メーカー(特にゼネラルモーターズ〈GM〉)の現場の実態を教えてくれる。
本書が出版されたのは2014年で、GMが2009(平成21)年に一度経営破綻し、その後の2011年に世界販売台数の首位に返り咲いたことを受けたものとなっているが、その時期のGMも依然として現場に問題を抱えていたことがわかる。
そして、本書は近年日本でも話題になっている「ジョブ型」と呼ばれる働き方がいかなるものであるのかを教えてくれる本でもある。日本では、ジョブ型という働き方を今までの日本的な働き方(メンバーシップ型)より新しいものとして捉える向きもあるが、本書を読めばそうした誤解も解けるはずである。
まず、アメリカの生産現場での人事の特徴は
「キャリアルートという考え方は存在しない」
という点にある。
アメリカでは、従業員がその技能を上げながら昇進を重ねていくという発想が存在せず、従業員はマニュアル通りの仕事をこなすことが期待されている。
同一労働同一賃金の原則があるために、同じ職務に就くかぎりは働きぶりに違いはあっても同じ賃金が支払われ、技能に応じて賃金が増えるということはないのである。これが、いわゆるジョブ型と呼ばれる働き方になる。