飛行機の最適な「搭乗方法」知ってる? 宇宙物理学者がアルゴリズムを駆使して考えてみた

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米ネバダ大学の物理学者が、搭乗時に乗客が混雑する状況や要因を考察し、アルゴリズムを使って最も効率的な搭乗順序を導き出している。それは何か。

ステフェン方式採用のハードル

飛行機の座席イメージ(画像:写真AC)
飛行機の座席イメージ(画像:写真AC)

 ステフェン方式が実際に採用されていないのは、実際の「現場」がそれほどシンプルではないということにも起因している。

 飛行機に乗り込む乗客はひとり旅とは限らない。カップルやグループ、家族連れもいる。小さな子どもや介助が必要な乗客もいるだろうし、そういった乗客は最優先で搭乗させることは業界の慣例だ。

 また、ファーストクラスなどの乗客はもちろん、フリークエントフライヤー(マイレージ会員)など、「優先されること」を権利として主張する上客の要望も無視できない。

 このように優先されるべき乗客が多く、一般客が搭乗を開始するまでに、かなりの座席がすでに埋まっているという可能性が高い。そうなると、ステフェン式の最適化の恩恵を受ける対象の比率は低下し、有益な特徴が実際には生かされない。

 実は、ユナイテッド航空がウィルマを採用する前に、その点を踏まえた独自の実験を行っている。実際の航空機で実際の乗客を使っての実験だ。結果、ウィルマがステフェン式を上回ったそうだ。結局、ステフェン氏が力を注いで編み出したステフェン方式は、無駄だったということなのだろうか。

 ステフェン方式が実用化されないのは、優先客の多さのみならず、航空業界のなかに、

「業界特有の要因や事情」

があるからだ。新しい手順は取り入れることが容易ではなく、実用化へのハードルも高いからではないか。特有の要因や事情を理解し、オペレーションに関連付け、そして組み込むノウハウを得られれば、ステフェン方式の有効な活用やさらなる改善が可能となるかもしれない。

 おそらくランダム方式から始まったと思われる搭乗方法は、ブロック方式、後ろから前へ方式へと試行錯誤を重ね、その弱点を補う画期的なウィルマへと至った。そして、そこからさらにステフェン方式へと進化してきた。つまり、これで終わりではなく、まだまだ続きがあるはずなのだ。

 飛行機に搭乗する際、乗客は自分の順番がいつ来るかばかりを気にしている。全体の搭乗時間をいかに短くするか、それが乗客にどれほどの影響を与えるか、考えたこともなかったが、搭乗方法も奥が深い。

 航空ビジネスでは、これは大きなコスト削減の問題である。ステフェン式を導入する体制を整えたり、より高度な方式を開発したりと、航空会社は今後、さまざまなビジネス課題をクリアする新たな搭乗方式を打ち出してくることだろう。

 どのような分野であれ、現状をそのまま受け入れるのではなく、改善を求め、そもそも改善の余地があることを認識することが、大きな進歩につながることも、ステフェン方式は示している。

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