三陸鉄道のアイデア勝ち 「シカ被害」を観光資源に大転換したナイスな企画“ナイトジャングルトレイン”をご存じか

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近年、シカが増えている。農林業への被害だけでなく、列車との衝突事故も増えており、JR身延線(富士~甲府間)では2022年度に列車とシカの衝突事故が300件に達し、過去15年間で最多となった。

シカと電車の衝突事故が増加

三陸鉄道の車両(画像:三陸鉄道)
三陸鉄道の車両(画像:三陸鉄道)

 近年、シカが増えている。農林業への被害だけでなく、列車との衝突事故も増えており、JR身延線(富士~甲府間)では2022年度に列車とシカの衝突事故が300件に達し、過去15年間で最多となった。また、JR東日本盛岡支社管内では、列車と衝突した動物の8割以上をシカが占めている。

 シカが線路に侵入する原因は定かではないが、鉄分を補給するためにレールをなめに来るという説もある。鉄道各社は、侵入防止ネットの設置に加え、犬などの鳴き声を発する装置を列車に取り付けたり、シカの天敵であるライオンのふんから抽出した成分を線路に散布したりして、シカを線路に近づけないようにしてきた。

 そんななか、一転してシカ被害を観光資源に変えた鉄道会社がある。三陸鉄道(岩手県宮古市)は、線路脇に現れるシカを車内から観察するアイデア企画を思いついた。その名も「ナイトジャングルトレイン」だ。

具体的なサービス内容

「ナイトジャングルトレイン」のチラシ(画像:三陸鉄道)
「ナイトジャングルトレイン」のチラシ(画像:三陸鉄道)

 岩手県の三陸海岸を走る三陸鉄道。夜桜を楽しめる「夜桜列車」や、車内でこたつに座れる「こたつ列車」など、さまざまな取り組みで県内外から愛されてきた。ナイトジャングルトレインは2022年からで、2023年も7~8月に計4回開催された。

 シカが出やすい夕方から夜にかけての時間帯を狙って、日没直前に釜石駅を出発し、大槌(おおつち)駅まで約20分かけて移動する。車内では弁当が振る舞われ、三陸鉄道のスタッフが野生動物が列車運行に与える影響について説明したり、同社と提携している盛岡市動物公園ZOOMOの園長がパネルやビデオレターでシカの生態を解説したりしている。

 ナイトジャングルトレインには筆者も乗車したのだが、列車が大槌駅に到着する頃には、あたりは真っ暗。ここからは消灯となり、列車は釜石駅方面へと折り返す。シカが最も多く見られる「シカポイント」に着くと、列車はいったん停車。

 窓を開け、懐中電灯で外を照らすと、たちまち線路脇にシカの姿が現れ、車内は歓声に包まれた。列車は速度を落とし始め、数分おきにシカが列車の周囲に現れた。乗客は大人も子どももシカの観察に夢中になり、歓声を上げていた。

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