地方都市に広がる「医療モール」 駅前再開発の希望となるか、はたまた周辺環境悪化の権化となるか

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駅前再開発で商業施設に医療機関を集める医療モールが地方都市で広がっている。新たな集客の目玉として期待しているためだが、周辺地域への影響など不安も残る。

メリットが大きい一方でデメリットも

尼崎市のタワーマンション低層階に設けられた医療モール(画像:高田泰)
尼崎市のタワーマンション低層階に設けられた医療モール(画像:高田泰)

 利用者にとって駅前の医療モールはメリットが大きい。サラリーマンは通勤途中で立ち寄れ、病院通いが時間の無駄になることがない。高齢者は公共交通で通うことで身体の負担を軽減できる。

 兵庫県尼崎市の阪神電鉄尼崎駅前には、29階建てタワーマンション(尼崎市御園町)の下層階に健診施設、複数の診療所、調剤薬局から成る医療モールが整備されている。市内の東難波町から路線バスで通院する80代の女性は

「足が弱くなったので、バス1本で通えるのはありがたい」

と笑顔を見せた。

 だが、メリットばかりとはいい切れない。駅前の医療モールが圧倒的な集客力で駅周辺に人を集める一方で、周辺地域を衰退させ、医療環境を悪化させることが考えられるからだ。

 鹿児島県では、人口10万人当たりの医師数が2020年度で293人と全国平均を23.8人上回っているが、鹿児島市など鹿児島医療圏と大隅半島の曽於(そお)市など曽於医療圏では3.6倍の格差がある。しかし、地方自治体の反応は鈍い。鹿児島県保健医療福祉課は

「医療モールの影響は想定していなかった」

と話した。

 過当競争を心配する声もある。枚方市の光善寺駅周辺では狭いエリアに多数の歯科医院が開業し、激しい競争を続けている。こうした地域に診療科が競合する医療モールが出現すれば、経営に深刻なダメージを与えかねない。

 駅前での医療モール整備は中心市街地を活性化し、通院患者の利便性を高める可能性を秘めているが、医療機関が一極集中し、周辺の医療が置き去りにされたのでは意味がない。自治体は駅前再開発を推進するだけでなく、地域医療への影響についても十分に目を配る必要がある。

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