「テロとの戦い」時代における兵站の行方とは? 近代以前の戦略回帰か、融解する最前線・後方地域の境界線

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「テロとの戦い」の時代におけるロジスティクスとは何か。いったいどのように変化していくのか。解説する。

「ジャストインタイム」への移行

イラク国内を走る軍用車両(画像:pixabay)
イラク国内を走る軍用車両(画像:pixabay)

 湾岸戦争(1991年)からイラク戦争(2003年)にかけて、軍事ロジスティクスの領域では、ISO(国際基準規格)コンテナの積極的活用やRFID(電波の送受信により、非接触でICチップのなかのデータを読み書きする技術)という電子タグの導入などの結果、ロジスティクスの可視化が実現し、ジャストインケースから

「ジャストインタイム(必要なものを、必要なときに、必要な量だけ配送する物流システム)」

への移行が進んだ。

 実際、イラク戦争では個々のコンテナに内容物、発送地、目的地などの情報を発信するRFIDが付けられ、外部から内容物や目的地を迅速に確認できるようになった。「軍事ロジスティクスにおける革命」と一部で高く評価されるゆえんである。

 加えて、

・ラストワンマイルでの工夫
・衛星の活用
・権限の委譲

なども大きく進んだ。民間であれ軍隊であれ、伝統的に物流をめぐる大きな障害のひとつは、ラストワンマイルの配送であった。

 鉄道でも航空機でも、最前線までの「最後の行程」はトラック、馬、最悪の場合は人に頼らざるを得ないとの問題は、歴史を通じてロジスティクス担当者を悩ませてきた。

 だが将来、ラストワンマイルは自動配達ロボットやドローンの導入によって無人化が可能となるかもしれない。逆に、いかに物流拠点あるいは策源地(前線の作戦部隊に対して、必要物資の補給などの兵站支援を行う後方基地)の自動化が進んだとしても、ラストワンマイルの効率化が滞れば、物流プロセス全体の障害であり続けてしまう。

 民間では今日、ラストワンマイルの配送に特異な制約を考慮したアルゴリズムとドライバーの衛星利用測位システム(GPS)データを解析、および学習するシステムを開発中である。そして、この技術は、軍事ロジスティクスの領域にも応用可能であろう。

 湾岸戦争では、約2か月分もの物資を開戦前に準備したが、イラク戦争では1週間分程度の物資で攻撃を開始した。

 こうした事実から、一部で

「戦略がロジスティクスから解放された」

と議論された。おそらくこれはいい過ぎであろうが、それはともかく、こうした状況を可能としたのは衛星もしくは軍事衛星を使った通信網の発展であった。

 最前線の部隊とロジスティクス担当部隊が通信で結ばれていれば、どの部隊が何を必要としているかとの情報が把握できるからである。

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