トヨタ「満額回答」で喜ぶのはまだ早い? 格差大きい自動車業界、末端への波及は望めるのか
トヨタ自動車は2023年春闘で、組合からの賃上げ要求に対し、満額で回答した。一見、喜ばしいことだが、自動車業界全体のことを考えると、手放しで喜べない面が見えてくる。
「産業全体の底上げ」狙った、トヨタの賃上げ
2023年1月、SNSなどを中心に電気代の高さが話題になったのは記憶に新しい。また、2月、3月と加工食品や調味料の値上げも相次いでおり、今後もさまざまなものが値上がりすると予測されている。
そのような中、トヨタ自動車は2023年春闘で、組合からの賃上げ要求に対し、満額で回答した。これにより、最も高いケースでは月額9370円の賃上げになるという。ボーナスも月給6.7カ月分が約束され、過去20年間で最も高い水準の賃上げになった。
物価高騰が市民の生活を圧迫している現在、給与の増減は生活を左右する大きな問題だ。トヨタ自動車が満額回答したのを追うように、トヨタ系大手部品メーカーのジェイテクトや愛三工業も、回答日よりも前に満額回答した。
トヨタに次いで賃上げを宣言した部品メーカーの社長からは「自社だけでなく、産業全体で底上げのムーブメントをつくる必要がある」という声も出ている。また、全トヨタ労連からは「正社員の賃金引き上げに連動する形で、非正規労働者の賃金が引き上がるケースも多い」という意見も出た。
最近、自動車業界以外でも、任天堂やセガ、ファーストリテイリングなどが、新卒の初任給アップや従業員の賃上げをする動きが相次いでいる。これらの動きは、少子化で人手が不足する中で優秀な人材を確保するためとも言われている。他業界の賃金が上がれば、当然自動車業界も同じように動かざるを得ないだろう。
物価高騰による賃上げ要求の高まりに加え、人材確保という面でも、賃金向上はもはや避けて通れない課題となっている。トヨタ自動車での賃上げを皮切りに、自動車業界全体の賃金が向上していく期待が高まっているのも事実だ。