つくばエクスプレス「延伸構想」は本当に実現するのか? 具体案は四つも、うごめく政治的思惑 JRとの戦いになる恐れも
四つの候補が乱立状態

「北進」の候補は現在四つで、概要は次のとおりだ。
●「筑波山」方面案
つくば駅から真北に針路を取り、広大な筑波学園都市をかすめながら名観光地・筑波山の麓に至るプランで総延長約20km。現在、公共交通機関として路線バスだけが頼りで、何かと不便な学園都市にとっての「足」の確保が主眼らしい。多くの学生や研究者の利用が見込まれ、かなりの定期券収入も期待できると見込む。国際競争力アップを掲げる学園都市にとっては、交通利便性の向上は戦略的にも重要だ。さらに「通勤・通学用鉄道の“終点”には観光地」は、日本の鉄道王と呼ばれた阪急電鉄の創始者・小林一三翁が掲げた鉄道経営の鉄則だ。小田急電鉄の箱根や東武鉄道の日光、京王電鉄の高尾山、近畿日本鉄道の伊勢・志摩などは、全部この鉄則を忠実に守る典型と言っていいだろう。平日は通勤・通学客、土日・休日は観光客で電車を利用客で満たす工夫で、これを考えれば、日本百名山のひとつに数えられ、年間登山者220万人を誇る観光地・筑波山を最終目的地に選ぶことは、鉄則を忠実に従った、理にかなったものと、一応見ていいだろう。
●「土浦」方面案
これは、つくば駅から東に10km弱にあるJR常磐線の土浦駅(土浦市)辺りでJR線とアクセスを図るプランだ。つくば駅は他線とのアクセスもない、いわば「尻切れトンボ」的な孤立した駅で、鉄道ネットワークから外れた存在とも言える。もう少し頑張って近くのJRまで線路を延ばして接続した方が、沿線住民にとっても何かと便利で、もちろん沿線価値も跳ね上がるだろう。県庁所在地・水戸市に出るのも楽になる。4案の中でも敷設する路線の距離が一番短く、単純計算で最も建設費が安く上がると想定されるため、実現可能性はかなり高い、と指摘する向きもある。
●「茨城空港」方面案
つくば駅の北東約30kmの茨城空港まで伸ばすプランで、途中JR常磐線の石岡駅辺りでJR線ともアクセスし鉄道ネットワークの充実にもひと役買うことも狙っている。同空港は羽田・成田に続く首都圏第3空港の地位にあり、近い将来は本格的な国際空港への格上げを期待されている。現在はコロナ禍の影響でインバウンド(訪日外国人)の入国が制限されているが、コロナ禍も数年後には収束すると見られ、観光需要の急回復も確実視される。もちろん日本政府は引き続きインバウンドを成長戦略のひとつとして重要視するはずだが、世界的に旅行需要が回復した場合、とりわけ海外渡航者が集中する羽田・成田両空港のキャパシティーが近い将来パンクすることが確実だと言われている。ただし問題は茨城空港の交通アクセスの悪さで、現状は鉄道はおろか高速道路すら直結していないお粗末さだ。そこで空港アクセス線よろしく、TXを延伸し、都心との間を1時間少々で直結できればとても便利だ、と賛同者は皮算用をはじいている。
●「水戸」方面案
つくば駅から北東に45~50kmの県庁所在地・水戸市まで伸ばすプランで、4案のなかでは最も路線が長く、恐らくは建設費も一番高くなるだろう。おおむねJR常磐線と並行するルートで、JR石岡駅付近でJR線とクロスさせて乗換駅を新設するらしい。JR常磐線に加え都心と水戸を直結する鉄道がさらに1本誕生すれば、地盤沈下が叫ばれて久しい“県都”を再興させるための起爆剤となる、と応援者は未来を描く。もちろん沿線開発にも弾みがつき、県内の経済活動も活発になると見ている。