つくばエクスプレス「延伸構想」は本当に実現するのか? 具体案は四つも、うごめく政治的思惑 JRとの戦いになる恐れも
県政の地殻変動で思わぬ影響も
一方、新路線建設となれば、少なくとも数千億円規模の税金が投入されるわけで、当然ながら陰に陽に政治家が介在する。この大金を地元だけで捻出するのは非現実的で、通常は地元出身の大物政治家が永田町・霞が関に影響力を及ぼして、国庫から捻出させる、という構図が“風物詩”だ。
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茨城県は歴史的に自民党が強い保守王国で、これまで「茨城のドン」「日本一実力のある地方議員」とあだ名された自民党県議の故・山口武平氏(享年97歳)が君臨していた。ところが2018年に逝去したことで、茨城県の中央政府に対するパイプの太さの弱体化を危ぶむ声もある。
県政でも異変が起こっており、6期24年もの長期にわたって県知事を務めた自民党系の橋本昌氏が2017年にまさかの落選となり、代わってニコニコ動画の運営母体・ドワンゴ元取締役の大井川和彦氏が初当選し、2021年に再選を果たして2期目に突入している。
このように茨城県の政治力学は近年「地殻変動」と呼ばれるほど急変しているため、当初有力視されていた案がどんでん返しされる大波乱も、もしかしたら起こるかもしれないとの声もある。今後地元の有力政治家たちの動向に注視すべきだろう。
事業化に向けて動き始めたTXの北部延伸構想は、2022年11月頃まで県が調査を行った後、有識者などによる第三者委員会を立ち上げて議論を重ねて1案に絞り込み、この結果を踏まえて2023年3月までに県が正式に延伸構想を決定、というタイムスケジュールを予定している。
一方、4案については、いまだ誘致団体が立ち上がっていない「筑波山」方面案は、単なる当て馬で、すでに可能性はゼロとの見方が地元では強いようだ。またここへ来て「茨城空港」方面案と「水戸」方面案が共闘の構えを見せ、最近ではつくば駅から石岡市、茨城空港を経由した後、水戸市に向かうという「合体案」もにわかに浮上し始めており、1案に絞り込むのは容易ではなさそうだ。
鉄道需要低迷のなかでの行方
それ以前に、コロナ禍やウクライナ情勢などで日本を取り巻く状況は数年前と比べて激変し、国の財政も逼迫状態で、日本国にとって「必要不可欠な国家プロジェクト」とも言い切れないTXの北進構想に対して、国庫から大金を注入するかは何とも言えないところだろう。
加えて景気低迷や自粛、リモートワークの普及などで鉄道需要も大幅に落ち込み、JR東日本でさえも大幅な収入源で悲鳴を上げ、不採算路線の「淘汰(とうた)」を示唆し始めるなど、鉄道業界全体が苦境に立たされている。
こうしたなかでの鉄道路線の延伸だけに、大井川知事も会見の席上
「乗り越えなければならない壁は非常に高い」
と訴えて、楽観視する向きにクギを刺している。TXが「北北東に進路を取れ」を実現するのは容易ではなさそうだ。