つくばエクスプレス「延伸構想」は本当に実現するのか? 具体案は四つも、うごめく政治的思惑 JRとの戦いになる恐れも

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2005年に開業し、大きく成長してきたつくばエクスプレスの延伸構想が前進し始めている。構想は4案。いったいどれがふさわしいのか。

JR東日本がライバルとなる恐れも

つくば駅と土浦駅の距離関係(画像:ONE COMPATH)
つくば駅と土浦駅の距離関係(画像:ONE COMPATH)

 だが、4案にはそれぞれ問題点もある。まず「筑波山」方面案だが、筑波山は確かに名観光地ではあるものの、例えば首都圏の消費者が箱根や日光などのように「毎年のように訪れたい」と思うほどの魅力のある渡航地かと問われれば、首をかしげるのではないか。ちなみにコロナ禍直前の年間観光客数を見ると、日光は約1200万人、箱根は約1900万人でケタが違う。

 その点、「土浦」方面案は4案の中で最も路線の長さが短く、現実的に見える。だが、JR東日本と利用客の奪い合いが起こる可能性も高く、過当競争による共倒れも発生しかねない。もちろんこれは「茨城空港」方面案、「水戸」方面案でも言えることだ。「茨城空港」方面案は今後の国家戦略を考慮に入れれば、最もメリットのありそうなプランで、国家予算も引っ張りやすい案件とも言える。

 ちなみにTXにはもうひとつの延伸計画、秋葉原駅から地下でJR東京駅に向かい、さらに東京臨海副都心へと伸ばす“南進”構想も存在する。

 ただしこちらは2016年に出された「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について(答申)」のなかでも、早期実現が指摘された計画だ。

 同答申は、交通政策審議会が国交大臣の諮問に応じて検討したもので、首都圏での鉄道路線新設に関して、国が事実上「お墨付き」を与えたものだ。換言すれば、同答申の俎上(そじょう)にも乗らない鉄道計画は実現不可能と考えていい。翻ってTXの北部方面への延伸構想は、まだこの答申で話題にも上っていないレベルで、実はTXの南進の方が実現性は高いと見ていいだろう。

 これを踏まえれば、TXの南進を言わば“呼び水”にし、茨城空港と東京駅・臨海副都心とを「乗り換えなし」でつないで、日本の国際競争力強化に寄与するとアピールすれば、他の3案よりも優位に立てる可能性が高い。

各延伸案を推す誘致団体も次々登場

茨城空港の位置(画像:(C)Google)
茨城空港の位置(画像:(C)Google)

 だが前述のように、ここでもJR東日本が立ちふさがるだろう。というのも、茨城空港との鉄道アクセスを考えるなら、TXの延伸よりもJR常磐線から枝線を伸ばした方がコストパフォーマンスがいいからだ。

 しかもすでに、JR常磐線は東京駅直通の列車を走らせており、そればかりか現在、羽田空港アクセス線をJR田町駅付近~羽田空港間に建設中で、2029年度の開業を目指している。もちろんJR常磐線とも直通する計画で、その先にはうっすらと「茨城空港アクセス線」も見えそうだ。

 このように、「茨城空港」方面案はJR東日本と真っ向勝負となる可能性も少なくない。ただし、仮に同案が採用された場合、JR東日本側の要望も考慮し、実際は成田空港のJR東日本と京成電鉄、あるいは関西国際空港のJR西日本と南海電鉄のように、空港に2社が並行して乗り入れる方式を採用するのでは、との指摘もある。もちろん茨城空港アクセスの選択肢が増え、またTXとJR東日本との間に競争原理が働き、サービス向上につながることも予想されるため、利用者にとってはウエルカムかもしれない。

 だが、成田や関空と比べて茨城空港の規模は圧倒的に小さく、利用者もかなり少ない。となれば双方の「茨城空港アクセス線」は少ない利用客の奪い合いで収益が伸び悩む可能性も否定できず、こうなれば体力的にTXが苦境に立たされる恐れがある、と見るのが自然だ。

 最後の「水戸」方面案だが、いわゆる水戸都市圏の人口は70万人程度で、茨城県全体でも約270万人にすぎない。しかも、すでにJR常磐線が存在する場所に並行して新路線を引いても、果たして黒字化できるのか非常に疑わしい。JR東日本も看過せずに全面競争を仕掛けてくるはずで、こうなれば企業体力的に劣勢のTX側が苦境に立たされることは間違いない。

 すでに、それぞれの延伸案を推す誘致団体も設立されている。2018年には早くもTX茨城空港延伸議会期成同盟会(土浦市、石岡市、つくば市など)が結成され、2022年4月にTX土浦延伸を実現する会、同年5月にはTX石岡延伸推進協議会、TX水戸・茨城空港延伸促進協議会(水戸市、石岡市など)が旗揚げしている。

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