鉄道運賃「変動制」に 失われる公共交通の「大義名分」、独占企業と国の行方とは

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話題となっている鉄道の「変動運賃制」。公共交通は単に利益をあげるための存在ではない、といった前提はどこへいったのか。

導入で「ラッシュ時の混雑緩和」

JR東日本が運営する山手線(画像:写真AC)
JR東日本が運営する山手線(画像:写真AC)

 国土交通省が「ダイナミックプライシング」の制度設計を始めている。

 ダイナミックプライシングとは、販売状況や季節によって変わる需要と供給に合わせて、商品・サービスの値段を柔軟に変える変動価格制のことだ。鉄道の場合は「変動運賃制」と呼ばれる。

 既にホテルやレジャー施設では、ごく当たり前に行われているが、近年では航空や高速バスでも運賃が事前届け出制になったことで導入された。現在、鉄道の運賃は認可制だが、JR東日本とJR西日本も導入を検討している。

 この導入によって期待されるのが、

「ラッシュ時の混雑緩和」

だ。

 なぜなら、混雑時の運賃を高く、すいている時間帯を安く設定すれば、乗客の利用が分散されると考えられるためだ。これまで、

・フレックスタイム制の導入
・オフピーク通勤の呼びかけ

が行われてきたが、それ以上の効果が期待できるとされている。

「総括原価方式」とは何か

自動改札機(画像:写真AC)
自動改札機(画像:写真AC)

 7月26日に開催された、国土交通省交通政策審議会の「鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会」の中間とりまとめでは、これを実施するための制度設計が求められた。

 現在の制度では、鉄道運賃は事業者が費用の合計に一定の利潤を加えた「総括原価方式」を基に、上限額を国に申請して認可を受けるシステムになっている。認可を受けるためには、収支見通しを示した上で公聴会など複雑な手続きが必要であり、運賃を10円値上げするだけでも1~2年かかる。

 中間とりまとめでは、この制度を大幅に見直しして

「鉄道事業者は、国の定めた基本指針を踏まえて運賃・料金を自由に設定」

するとともに

「利用者利益を毀損(きそん)する運賃・料金が設定された場合には、変更命令等により是正」

できる形で、制度設計を検討していくとしている。

 また、変動運賃を可能にするために必須なのは、交通系ICカードなどのシステムの見直しだ。中間とりまとめでは、この点にも触れ、多様な運賃の設定や交通系ICカード以外のQRコード、クレジットカードなどでの決済にも十分対応できるシステムの検討が不可欠としている。

 つまり現段階では、どのような制度で運用し、対応するシステムをつくっていくのかが未知数なのだ。

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