なぜMaaSは「実証実験レベル」で終わってしまうのか? 繰り返される失敗、理想的なモビリティサービスの在り方とは

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欧州や日本では都市型/地方型のモビリティサービスの在り方が模索されている。その一方、サービスの開発には失敗パターンが多く潜んでいる。いったいなぜなのか。

MaaS事業開発のアプローチ手法

新規事業開発のステップ(画像:西口恒一郎)
新規事業開発のステップ(画像:西口恒一郎)

 最後に、MaaSの事業開発アプローチ手法について考えていきたい。

 新規事業開発のステップは、大別すると6段階に分かれる。各ステップでのポイントはあるが、ここではステップ1の「事業仮説構築」を中心に見ていきたい。筆者に最も多く相談が寄せられる部分で、「新規事業のアイデアをどのように発見するのか」という事業開発の要所だ。

 そもそも、新規事業への考え方は「誰にも思いつかなかったアイデアを発想すること」ではなく、

「まだ解決されていない社会課題を発見すること」

がスタートラインだ。

 経験上、思いつきから新たな事業が生まれることは少なく、地域の移動や生活を深く観察し、そこからまだ解決されていない課題を見つけ出すことがポイントとなる。

 その上で重要になるのが、この課題は事業開発で取り組むべき課題かどうかという「課題の質」の評価だ。モビリティサービス開発の落とし穴には、

「課題ではあるものの、お金を払ってまで解決したいと考えている人(企業)は少ない」
というのが、よくある。

 事業開発で取り組むべき課題を見定めるためにも、以下の四つの観点で「課題の質」を評価すべきと考える。

1.課題の広さ(同様の課題を抱える人・企業がどの程度いるか)
2.課題の発生頻度(どの程度の頻度で課題が発生するか)
3.課題の深さ(お金を払ってでも解決したいか)
4.課題の発生期間(課題は構造的に維持や拡大を続けるか)

 現実的には、四点全てに「〇」が付くケースは少ないものの、「課題の深さ(お金を払ってでも解決したいか)」だけは正確な把握を推奨している。

 課題の質の評価は新規事業開発の肝だが、実際に十分な調査や議論がなされないままPoCがスタートするケースは多い。だからこそ、PoCに入る前段階で

・想定ターゲットに対するインタビューやアンケート調査
・プリセールスを通じて課題の質の評価

を行うべきではないか。また、その調査のなかで事業として解決すべき課題の捉え方や、ソリューション(サービス・プロダクト)をブラッシュアップすることも可能だ。

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