なぜMaaSは「実証実験レベル」で終わってしまうのか? 繰り返される失敗、理想的なモビリティサービスの在り方とは

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欧州や日本では都市型/地方型のモビリティサービスの在り方が模索されている。その一方、サービスの開発には失敗パターンが多く潜んでいる。いったいなぜなのか。

サービス開発に潜む「失敗パターン」

都内を走るバス(画像:写真AC)
都内を走るバス(画像:写真AC)

 自動車の電気自動車(EV)化の加速など、欧州や日本では都市型/地方型のモビリティサービスの在り方が模索されている。その一方、サービスの開発には失敗パターンが多く潜んでおり、

・実証実験(PoC)だけで終了してしまう
・サービスを開始したが想定よりユーザー数が増加しない

といった問題が生じている。

 これには、都市/地方それぞれにマッチしたMaaS事業を考えていく必要があり、各エリアで持続可能なサービスを開発することが鍵になる。

 本稿ではMaaS事業開発を広く捉え、

・どのように地域のユーザーニーズを捉えたサービス設計を行うのか
・どのように収益ポイントを作り、事業としての採算ラインを超えていくのか

について考察していきたい。

なぜPoCで終わってしまうのか

MaaSのイメージ(画像:国土交通省)
MaaSのイメージ(画像:国土交通省)

 モビリティサービスの開発における失敗パターンにはさまざまな要因があるが、大きく

1.勝負できる新規事業領域が見つけられない
2.推進すべき事業開発リーダーが不在
3.事業化に至るビジネスモデルが構築できない

の三つに分類できる。

 まず「勝負できる新規事業領域が見つけられない」について説明しよう。サービスの開発では、自社が勝負できる市場や参入機会を見つけ出すことが第1歩だ。新規事業を探るフレームワークは数多くあるが、例えば、PEST分析による外部環境予測や、ワークショップを通じて自社の強みや弱みを把握し、ビジネスの種を見つけ出すという手法が一般的だ。

 PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境が、現在もしくは将来的にどのような影響を与えるかを把握・予測するためのフレームワークを指す。分析対象は

・政治(Politics)
・経済(Economy)
・社会(Society)
・技術(Technology)

という四つの外部環境だ。

 しかしながら、この方法だけでは十分な探索ができない。理由は明確で、フレームワークありきで取り組み始めることで、

・既存市場で勝負する
・自社の強みを生かせる事業をする

といった前提にとらわれることが多いからで、結果として有望な新規事業領域を見逃してしまうケースが多い。

 続いて「推進すべき事業開発リーダーが不在」について。PoCを必要とするMaaS領域の事業開発を行う多くは大企業だ。企業内で新規事業を0から生み出し、そして1から10に成長させていくためには、事業を推進できるリーダーが不可欠となる。

 しかしながら、実際には組織内で事業開発を担当した経験、あるいは、事業成立まで実現できた事業リーダーが不在、というケースがほとんどだ。所説あるが、筆者(西口恒一郎、経営コンサルタント)の経験では、事業開発リーダーに適するイノベーター人材の出現率は5%程度に過ぎない。

 新規事業開発には固有のノウハウや、難しい局面を乗り越えていくマインド/スタンスが求められるが、社内だけでは適正人材を調達できないケースが多く、そもそもの推進体制が構築できないことが多い。

 最後に「事業化に至るビジネスモデルが構築できない」について。事業を立ち上げ・継続させるためには持続可能なビジネスモデルを組む必要があるが、多くのモビリティサービスは公共インフラであり、多額のコストを支払うものではない。

 このようなサービス特性を理解した上で、他のプレーヤーとのエコシステムを通じて、最終的に自社にお金が流れるスキームを構築できるかというビジネスモデルが求められる。しかしながら、PoCフェーズで本腰を入れてこの議論がなされるケースは少なく、結果的に実装時に頓挫してしまう。

 ここまで、モビリティサービスの開発における三つの失敗パターンを整理してきた。では、実際に開発にあたり、どこから考えていくべきなのか。当然ながら、各エリアにおいて、「どのような移動」に関わる課題があり、「どこに事業機会がある」のかを特定すべきだ。

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