自動車産業を包囲する悪夢 「米中対立」「ウクライナ侵攻」はバリューチェーン構築にどのような影響を与えるのか

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中国と東アジアの「グローバル・バリューチェーン」の発展について解説。中国以外の東アジア諸国がこれまで、高付加価値の部品・付属品を生産し、輸出してきた。

GVCが大きく発展した東アジア

EVのイメージ(画像:写真AC)
EVのイメージ(画像:写真AC)

 今回紹介する猪俣哲史『グローバル・バリューチェーン』(日本経済新聞出版社)の冒頭には、「iPhoneはメイド・インどこか?」という問いが置かれている。「U.S.A.」か「China」で迷うかもしれないが、正解は「Designed by Apple in California, Assembled in China.」である。カリフォルニアでデザインされ、中国で組み立てられたと表記されているのだ。

 iPhoneが典型例だが、現在の工業製品はさまざまな国から部品が集められ、中国などで組み立てられ、そして世界各地へ出荷されている。この国境を超えたサプライチェーンがグローバル・バリューチェーン(GVC)である。本書はこのGVCのしくみを分析し、これが世界の経済に与える影響と貿易の将来を展望している。

 GVCが大きく発展したのが東アジアである。欧州連合(EU)が「似た者同士」のグループであるのに対して、東アジアには、日本や韓国のような先進工業国がある一方、インドネシアのような資源国、シンガポールのようなサービス産業立国、さらに巨大な労働力を持つ中国と、異質な国が集まっている。

 また東アジアは、域内で関税のかからない東南アジア諸国連合(ASEAN)をはじめとして、工業製品の関税が低い国が多く、さらに、香港とシンガポールという、高度に整備された輸送インフラや物流管理能力を持ち、英語と中国語を主要言語に持つという都市もある。こうしたことがGVCの発展をもたらした。

 東アジアのGVCは、

1.中国以外の東アジア諸国が高付加価値の部品・付属品を生産し
2.それらを中国の安価(低付加価値)な労働力によって集中的に最終製品へと組み上げ
3.消費市場としての欧米諸国に輸出する

という形で発展した。

 GVCにおいて重要なのは、いかに付加価値のある工程を握るかである。

 例えば、中国で組み立てられたiPhoneが180ドルでアメリカに輸出されれば、貿易収支の上では中国は180ドルの輸出をしたことになるが、実際に中国が得ている付加価値は組み立て工程でのわずかなものにすぎない(2009年のiPhone3Gだと中国の組み立て工程での付加価値は製品価格の1.3%だったという)。このため、中国の対米貿易黒字は過大に評価されている恐れもある。

 ただし、近年の中国では高付加価値の部品や付属品の生産も伸びており、組み立て工程だけを担う存在ではなくなりつつある。

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