自動車産業を包囲する悪夢 「米中対立」「ウクライナ侵攻」はバリューチェーン構築にどのような影響を与えるのか

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中国と東アジアの「グローバル・バリューチェーン」の発展について解説。中国以外の東アジア諸国がこれまで、高付加価値の部品・付属品を生産し、輸出してきた。

自動車産業で進むモジュール化

自動車工場のイメージ(画像:インフォアジャパン)
自動車工場のイメージ(画像:インフォアジャパン)

 GVCにもさまざまなタイプがあり、例えば、アパレルでは製品を発注する企業が圧倒的な力を握っている。

 ブランド企業がデザインと素材を提供し、加工業者が指示通りにつくって納品するという形になっており、生産工程は労働集約的なので、発注先はより賃金水準の低い地域へと移転していく。1950~1960年代の日本、1970~1980年代のアジアNIEs、1990年代の中国、そしてバングラデシュなどへと請負拠点は移動していった。

 一方、自動車産業はこのようにはいかない。自動車は1500種以上の部品から構成されており、開発段階からの丁寧なすり合わせが必要になる。自動車はあらゆる局面で体系的かつ組織的な調整を要し、サプライチェーンは統合されやすい。つまり、海外展開においても、親会社と子会社が一緒に進出するような形での展開になりやすい。

 しかし、この自動車産業でも近年はモジュール化が進行している。モジュールとは製品を機能ごとに区分けした部品集合体のことであり、モジュール同士の接続についても比較的簡素で標準化されたルールが定められている。このため、モジュール化が進むと部品のすり合わせなどの連携作業が少なくなり、部品の外注可能性は高まることになる。

 パソコンなどでは早くからモジュール化が進んだために、中小メーカーでもパソコンを売り出すことが可能になったが、自動車産業でもそれが起こる可能性はある。

 例えば、中国では瀋陽航天三菱汽車とデルファイが、主に中国の地場自動車メーカーに対して、その個別の車体を基準に、エンジンなどの基幹部品をマッチングして販売するというビジネスを協業した。

 前者がエンジンとトランスミッションを設計し、後者がそれを各車体用にカスタマイズするための電子制御ユニット(ECU)を手掛けるというものであるが、これは自動車の中核となるエンジンとトランスミッションのすり合わせをECUに行わせるもので、高い技術力がない企業にも自動車製造への参入を可能とするものである。

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