インドネシア新首都建設 移転先の「カリマンタン島」を巡る鉄道計画をご存じか
新首都の島には現在鉄道なし

去る3月に公開された「新首都に関する法律2022年第3号」では、域内交通、都市間交通それぞれに鉄道の文字が確認され、電化・軌間1435mmの規格で建設されることがほぼ決定している。各資料内でも表記にゆれが見られるものの、新首都の北東部から南西部を結ぶ域内交通としてのMRT、そして近接するバリックパパンを結ぶ都市間交通としてのMRTが構想されている。
なお、カリマンタン島には、現時点で鉄道は存在せず、2011年に運輸省が2030年までに整備すべき路線として、スラウェシ島、カリマンタン島の新線建設を示したにとどまっている。いずれも国家予算で建設され、貨物輸送に主眼を置いた非電化1435mm路線で、既存のジャワ島、スマトラ島の鉄道とは別規格で建設される。そのうち、スラウェシ島のマカッサル~パレパレ間(約145km)が先行区間となり、2018年に着工、2022年内に完成する見込みである。
カリマンタン島の計画は遅々として進捗(しんちょく)が見られなかったが、この国が定める路線とは別に、ロシア政府とインドネシア政府が覚書を結び、バリックパパンから内陸のクタイバラット(約200km)までを結ぶ石炭輸送をメインとした路線の建設が2011年に決定した。ロシア主導のPPP方式による建設で、民間のPT Kereta Api Borneo(ボルネオ鉄道)が設立され、53兆ルピア相当が民間調達済みと報じられた。
しかし、何らかの事情で2020年にロシア側が同区間建設の白紙撤回を表明し、プロジェクトは凍結された。ちなみに、この路線は新首都計画地に近接するルートを取っているが、この計画凍結が首都移転計画と関連しているかどうかは不明である。ともあれ、運輸省が示したカリマンタン島鉄道計画およそ2428kmのうち、フェーズ1とされているカリマンタン島東部の区間、特にサマリンダ~バリックパパン~バンジャルマシン間は新首都へのアクセス鉄道の一部にもなるため、工期表では、早期に着工することが示されている。国家予算の他、PPP方式での資金調達で賄う計画である。
新首都の鉄道計画に話を戻そう。まず、ヌサンタラとバリックパパンの間のMRTだが、バリックパパン近郊では、先述のサマリンダ~バリックパパン間の運輸省建設路線を共用し、サンボジャから分岐し、内陸のヌサンタラ方面に進むようだ。面白いのは、「新首都に関する法律2022年第3号」内でこの路線は空港鉄道とも表記されていることで、バリックパパン側の起点がルターン・アジ・ムハンマド・スレイマン国際空港(BPN)になっている点だ。
マスタープランでは新首都内の空港に関して言及が無く、当面の間はバリックパパンの空港を代替空港とするものと思われる。運輸省資料によると、空港とヌサンタラの間の所要時間は30分と設定されている。距離にして、およそ80kmと推測されるため、最低でも160km/h程度で走行する高速型のMRTになりそうである。
なお、これとは別に新首都内に空港を建設するとブディカルヤ運輸相は発言しており、現地視察を済ませている。詳細な立地が名言されていないが、この都市間MRTの沿線になりそうである。詳細設計はこれからのため、工期表も白紙で、開業するのはしばらく先になる。
域内MRTには都心部を中心に14駅ほどが設置される。北東部のビジネス商業エリアと、南西部の官庁エリアを結ぶ形で、総延長30~40kmの路線になるものを思われる。「新首都に関する法律2022年第3号」では、基幹1路線の他、中心部の外周を描くフィーダー線も示されているが、運輸省、国家開発企画庁の資料ではそれが見当たらず、優先順位は低いものと思われる。また、規格も都市間MRTと同様のものになるのか、軽量輸送用の高架式LRTタイプなるのかは定かではない。この工期表も白紙の状態である。
運輸相はこのふたつのMRTに関して、国家予算は用意されていないとも発言しており、海外からの投資を待ち、しかるべきコンサルタントが設計し、規格が策定されることになるだろう。