インドネシア新首都建設 移転先の「カリマンタン島」を巡る鉄道計画をご存じか

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インドネシアの首都がジャカルタからカリマンタン島に移転する。法案も国会で可。今後、同国はどのように変わるのだろうか。

駅前広場がないインドネシア

ジャカルタ郊外の国鉄(KAI)駅前。駅前開発が全く行われておらず、アンコットと呼ばれるミニバス(画像中の赤や青のミニバン)が路上で客待ちをする為、渋滞の原因になっている(画像:高木聡)
ジャカルタ郊外の国鉄(KAI)駅前。駅前開発が全く行われておらず、アンコットと呼ばれるミニバス(画像中の赤や青のミニバン)が路上で客待ちをする為、渋滞の原因になっている(画像:高木聡)

 先般、ジャカルタ初の本格的都市鉄道として大量高速鉄道(MRT)が開業したが、最後まで高架区間の駅出入り口が建設できなかった。MRTに限らず、現在建設中の次世代型路面電車(LRT)も同様である。道路脇の本来、歩道であるべき場所ですら、所有を主張する者が出てくる。

 インドネシアの駅前や、繁華街、それに都市カンプンの多くは「土地ヤクザ」と言われるごろつきによって、既得権益的に管理されており、駐車代やみかじめ料などによって大きな利益を上げている。よって、日本では当たり前な、駅前広場という概念がこの国には存在しない。人も車も自由に出入りできる広場を作れば、またたくまにごろつきに管理されてしまう。

 だから、国鉄(KAI)の駅前などは、厳重に柵で覆われ、有料パークアンドライド駐車場利用者のみが入れるようになっている。バスやタクシーはそこに入れず、道路の車線をふさいで客待ちをする(ちなみに、客待ちのための道路使用料をごろつきに支払っている)。

 そして、駅前には歩道すら無く、駅前一等地と呼んで差し支えないところに、バラック建ての民家が並んでいたりする。商業施設やちょっとおしゃれなカフェなどは、だいたい駅から少し離れたところにある。ジャカルタ特別州自体、スマートシティ政策を掲げて久しく、ごろつきによって管理されていた市内の民間バスを淘汰(とうた)し、市バス(トランスジャカルタ)に置き換え、Maasアプリの開発などもしているものの、このような現状がある以上、スマートシティの実現には程遠い。

 つまり、新首都ヌサンタラへの移転は、このような既得権益からの決別、そしてゼロから、21世紀にふさわしい、ゆとりある街づくりを実現することを意味する。ジョコウィ大統領は、新首都の設計にあたり、

1.国民的アイデンティティー
2.スマートシティ
3.グリーンシティ
4.サステナブルシティ

と四つの指針を示している。

 特に交通関係に絞ると、公共交通指向型開発(TOD)を前提とし、公共交通利用率を80%、主要施設まで駅やバス停から10分以内で到達できることを目標としている。現状のインドネシアの交通モード比率を考えると、かなり野心的な目標である。

 国家開発企画庁の資料でも、経済分野に次いで交通開発が掲げられており、新首都開発において交通政策は重点が置かれていることが伺える。コンパクトな街づくりを掲げて、新首都内にはMRTを基幹軸に、駅からは電気バスによるバス高速輸送システム(BRT)や、無人運転のミニバス等の2次交通を用意し、広い歩行者空間と自転車レーンを設けることとしている。

 公共交通とは無縁の世界で育ち、公共交通は貧民の乗り物として反対論者も多いインドネシアの政府役人が描く新首都像としては異例と言わざるを得ない。もちろん、環境色を前面に打ち出すことで、排ガスまみれで劣悪な環境のジャカルタからの移転を明確にし、移転の歓迎ムードを醸成、そして次期大統領選では移転推進派の当選に導くという、計算ずくの新首都像と言う面も否めないが、これらは既にマスタープラン(基本計画)として承認されており、一般民衆出身のジョコウィ大統領の強いイニシアチブを感じる。