なぜ交通事故の犠牲者は“弱者”に集中するのか? スマホ運転「リスク4倍」の裏にある世界の現実
スピード超過と飲酒運転の危険

運転する側をめぐる一番の危険要因はスピード超過にある。平均速度の上昇は、衝突事故が起きる確率と、ぶつかった際の被害の深刻さの双方に深く関わっている。たとえば平均走行速度が1%上がると死亡事故のリスクは4%、重傷事故のリスクは3%膨む。移動時間を削って自身の効率を高めたいというドライバーの勝手な思惑が、同じ道路を行き交う他者の命を脅かす。
とりわけ歩行者が車の前面にはねられた場合、速度が上がるにつれて死亡リスクは跳ね上がる。時速50kmから時速65kmに上がっただけで、その危険性は4.5倍に達する。これが車同士の側面衝突であれば、同速度における乗員の死亡リスクは85%だ。ドライバーが手にするわずかな時間短縮の裏で、まわりの歩行者や他の車両が背負わされる危険が容赦なく高まっている。
酒や薬物がもたらす影も重い。アルコールや精神活性物質の影響下での運転が、致命的な事故につながる危険性を高めるのは当然ともいえる。飲酒運転の場合、事故のリスクは血中アルコール濃度(BAC)が低い段階から現れはじめ、0.04g/dl以上になると一気に跳ね上がる。薬物の場合はその種類によって度合いが異なり、たとえばアンフェタミンを服用した人の死亡事故リスクは、そうでない人の約5倍に及ぶ。こうした正常な判断を欠いた走行は、共有の財産である道路の安全を足元から崩していく。
一方で、被害を食い止める手だてもある。シートベルトを締めることで、車に乗っている人の死亡リスクは最大で半分に抑えられる。チャイルドシートを使えば、乳幼児の死亡率は71%下がる。オートバイであってもヘルメットを正しく被れば、死亡リスクを6倍以上減らし、脳に負う傷を最大74%和らげることがわかっている。
それなのに、これほど有効な対策が広まらない背景には経済的な壁が立ちはだかる。低所得国や発展途上国、あるいは先進国の貧困層においては、
「日々の暮らしを守ることが最優先」
となり、安全のための道具を手に入れて維持する余裕が生まれにくい。ここに政府の取り締まりの緩さが重なることで、防げるはずの命が失われ、めぐりめぐって公的医療費や社会保障費といった国の財政を圧迫する。