なぜホンダは“道路問題”に踏み込んだのか? 橋の6割が老朽化する時代、インフラ崩壊に抗う「最後の担い手」
走行データによる点検革新

国土交通省の資料を読み解けば、路面の調査や点検の本質が見えてくる。それは点検すること自体が目的ではない、ということだ。得られた数字をいかに補修計画へ落とし込むか。そこまで見据えた運用が求められている。だが、理想的な体制を整えたとしても、現場には人手や費用、そして日々の重い事務負担がのしかかり、思うような対応を阻んでいるのが実情だ。
とりわけ、自治体の限られた人員と財政のなかで、いかに点検の精度を上げ、調査の範囲を広げていくか。数年に一度という点検の周期では、刻々と移ろう路面の変化を捉えきれない。情報は手に入れたそばから古くなり、鮮度が失われていく。このタイムラグこそが、実効性のある運用を妨げる大きな壁となっている。
こうしたなか、自動車の走行データから路面の状態を読み取る技術が、がぜん注目を集め始めている。車を移動の道具ではなく、社会の情報を吸い上げるセンサーとして捉え直す試みだ。
その先頭を走るホンダは、路面点検の実効性を高める手段として「Honda Drive Data Service(HDDS)」を打ち出している。車に備わったセンサーが感知する加速度や振動を分析し、路面の凹凸や傷みを見つけ出す仕組みである。これまでの点検が数年に一度の「点」であったのに対し、走行データを使えば日常的に、それもほぼリアルタイムに近い「線」での把握が可能になる。
コストを抑えられる利点も無視できない。すでに街中を走っている車を活用するため、膨大な設備を新たに整える必要がないからだ。財政に余裕のない自治体にとって、これは極めて切実なメリットになる。また、扱うデータは個人を特定しない形に加工されるため、行政の現場でも扱いやすい。
将来は、通信機能を持つ車同士がつながることで、管理のあり方はさらに様変わりするはずだ。危険な場所の情報を車が互いに教え合い、運転者へ瞬時に伝える。そんな光景も現実味を帯びてきた。実際にホンダは、米国オハイオ州の運輸局とともに試験運用を行い、一般の車から集めたデータで路面の状態を地図上に描き出してみせた。日本以上に道路が長く、老朽化が進む米国では、低コストで「予防」につなげる手法の検討が急ピッチで進んでいる。
この動きは、メーカーが車の販売というこれまでの枠を超え、行政の課題を解くデータ事業へと踏み出したことを物語っている。走行データが価値を持つことで、車は社会基盤を支える欠かせない情報源となる。それはメーカーにとっての新たな収益の柱となるだけでなく、公共インフラの維持費を劇的に下げる可能性を秘めている。