「技術の魂を取り戻せ」 ホンダ、最大2.5兆円損失からの復活劇? 過剰なEV戦略を乗り越え「三現主義」の再生なるか

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ホンダが上場以来最大となる6900億円の最終赤字に直面。累計2.5兆円規模の損失処理は、EV戦略の揺らぎと組織の歪みを直視し、ものづくり回帰を迫る転機となる。

歴史に重なる現状と三現主義の原点

本田技研工業副社長、本田技術研究所社長を務めた入交昭一郎氏が寄稿した日本機械学会誌『チャレンジングスピリット・独創の技術への挑戦』1992年4月発行(画像:日本機械学会)
本田技研工業副社長、本田技術研究所社長を務めた入交昭一郎氏が寄稿した日本機械学会誌『チャレンジングスピリット・独創の技術への挑戦』1992年4月発行(画像:日本機械学会)

 今、ホンダが置かれた境遇は、かつての景色と不思議なほど重なって見える。1991(平成3)年、当時副社長だった入交(いりまじり)昭一郎氏が記した『チャレンジングスピリット・独創の技術への挑戦』という一文だ。この言葉が世に出た1992年、ホンダは創業者の本田宗一郎を亡くし(1991年8月)、三菱自動車による買収の噂さえ飛び交っていた。組織全体が、得体の知れない不安に包まれていた頃の話である。

 入交は、理屈をこねる前にまず現場に立ち、現物を見て、現実に即して考える「三現主義」の尊さを説いた。翻って今回の2兆5000億円もの巨額損失を眺めれば、それは北米のEV需要という足元の現実を軽んじ、机上の目論見を優先して突き進んだことへの、手痛い警告のようにも映る。

 かつて後輪も動かす四輪操舵(4WS)を世に問うたとき、開発者たちは「後ろのタイヤは動かないものだ」という、車づくりの当たり前を真っ向から疑った。既存の仕組みに縛られず、理想の曲がり方とは何かを根っこから考え抜いたのだ。その背中を支えていたのは、「技に限りはない。答えは必ずある」という、ひたむきな信念だったはずだ。

 だが今はどうだろう。「売れる車がない」(『ダイヤモンドオンライン』2026年4月3日付け)という現場の嘆きや、販売台数が2019年から3割以上も落ち込んだという現実の数字が、かつての粘り強さが失われたことを物語っている。いつの間にか、現場の真実よりも組織の都合がまかり通るようになってはいないか。

 排気ガスを減らす画期的なエンジン「CVCC」を生んだ際も、後から付け足す道具で誤魔化すのではなく、燃焼そのものを正すという、本質的な解決を貫いた。今の電動化の波に洗われるホンダに求められているのも、うわべの対応ではない。移動の価値そのものを、もう一度足元から見つめ直す姿勢だろう。異なる意見が激しく火花を散らす、あの頃の開発の熱りを取り戻すこと。それこそが、再生への道筋を見出すための、何よりの道しるべになるだろう。

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