「もう国際秩序は頼れません」 自動車産業に迫る“サプライチェーン不安定化の危機”──力がすべてを決める世界の現実とは? 米著名投資家の警告から考える

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著名投資家のレイ・ダリオ氏が警告する「戦後秩序の崩壊」により、自動車産業は効率追求から国家の生存を懸けた「銃とバター」の調達へと変質した。1930年代のドイツが年8%超の成長で国力を示したように、現代のモビリティも地政学戦の武器と化している。剥き出しの「力」が支配する新局面で、企業が生き残るための冷徹な資本・技術戦略を、歴史の循環から浮き彫りにする。

レイ・ダリオ氏が宣告する秩序の終焉

荒廃都市に佇む黒い自動車、力と生存の象徴イメージ。
荒廃都市に佇む黒い自動車、力と生存の象徴イメージ。

 2026年2月15日、著名投資家のレイ・ダリオ氏は自身のX(旧ツイッター)で、1945年以降に続いてきた世界の枠組みが崩れたと書き込んだ。ダリオ氏は、世界最大級のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であり、長い歴史データをもとに経済と権力の移り変わりを読み解いてきた人物として知られる。

 著書『世界秩序の変化に対処するための原則―なぜ国家は興亡するのか(Principles for Dealing with the Changing World Order)』(日本経済新聞出版)では、国家の盛衰を数百年単位の循環としてとらえる視点を示した。その延長線上で、いま世界はきわめて厳しい局面に入ったと見る。今回の考察は、このSNSでの発信を出発点に、モビリティ産業が直面している現実を見つめ直す試みである。

 ミュンヘン安全保障会議での議論を踏まえ、ダリオ氏は秩序の崩れを公に認めた。各国の首脳が集まる場で、安全保障報告書『Under Destruction(破壊下)』が示したのは、戦後の国際枠組みが終わりに向かっているという認識だった。氏が唱える歴史循環モデルでいえば、最終段階にあたる

「第6ステージ」

である。国際社会を縛ってきた決まりが力を失い、大国同士の緊張がむき出しになる。そこでは力の大小が前面に出る。

 この転換が強く影を落とす産業のひとつが自動車である。長年、国境をまたいだ分業と効率を前提に広がってきたからだ。その土台が揺らいでいる。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、ここ数十年続いた世界の枠組みはもはや存在せず、自由も当たり前ではないと述べた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は欧州に戦争への備えを促し、米国のマルコ・ルビオ国務長官もまた、これまでの世界が消えつつある現実を認めている。

 かつて当然とされた前提が、音を立てずに崩れ始めている。自動車産業は、その変化のただなかに置かれている。

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