「もう国際秩序は頼れません」 自動車産業に迫る“サプライチェーン不安定化の危機”──力がすべてを決める世界の現実とは? 米著名投資家の警告から考える

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著名投資家のレイ・ダリオ氏が警告する「戦後秩序の崩壊」により、自動車産業は効率追求から国家の生存を懸けた「銃とバター」の調達へと変質した。1930年代のドイツが年8%超の成長で国力を示したように、現代のモビリティも地政学戦の武器と化している。剥き出しの「力」が支配する新局面で、企業が生き残るための冷徹な資本・技術戦略を、歴史の循環から浮き彫りにする。

勝者と敗者の分岐点

 「第6ステージ」の過酷な環境では、組織の優劣を決める基準は、従来の市場占有率や顧客満足度から、国家の財政力に裏付けられた支出能力へと移る。ダリオ氏が指摘する通り、米国が冷戦期にソ連を圧倒したのは、実戦を交えず相手を上回る資金を長期に投じ続けた結果である。国家の長期的成功は、国民生活を支える「バター」と、敵対勢力から身を守る「銃」の両立にかかっている。この均衡が崩れれば、国内の対立や外圧に対して脆弱となる。

 モビリティ産業の勝者は、自らの力を正しく把握し、他者の力を過小評価しない組織だ。ダリオ氏は、合意や法律よりも権力が優先されると述べる。自らの解釈を押し付け、既存の規律を覆せる力を持つ者だけが望む結果を手にする。1933年から1938年にかけて、ドイツの株価が約70%上昇を続けた背景には、自国通貨での借り入れを生産的活動に振り向け、実質成長率を年平均で8%超に高めた財政・金融政策の力があった。

 戦局が決定的になった1942年のミッドウェー海戦以降、連合国側の株価は上昇を続ける一方、敗色濃厚の陣営の市場は停滞した。最終的に敗戦国となったドイツや日本の株式市場は閉鎖され、再開までに約5年を要し、それまでの価値は事実上消滅した。

 敗者となるのは、囚人のジレンマに陥り、相手を破壊しようと自らも致命的打撃を受ける組織だ。引けば地位の喪失や支持低下を招く恐れがあるため、無益な挑発を繰り返す行為は破滅を招く。特に相対的な力が低下している局面では、対抗のタイミングを誤ることは許されない。「第6ステージ」を生き延びるには、相手の譲れない一線を見極め、寛大さや信頼に基づく協調関係、すなわちソフトパワーを活用する力が不可欠である。

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