「もう国際秩序は頼れません」 自動車産業に迫る“サプライチェーン不安定化の危機”──力がすべてを決める世界の現実とは? 米著名投資家の警告から考える
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著名投資家のレイ・ダリオ氏が警告する「戦後秩序の崩壊」により、自動車産業は効率追求から国家の生存を懸けた「銃とバター」の調達へと変質した。1930年代のドイツが年8%超の成長で国力を示したように、現代のモビリティも地政学戦の武器と化している。剥き出しの「力」が支配する新局面で、企業が生き残るための冷徹な資本・技術戦略を、歴史の循環から浮き彫りにする。
歴史が示す「銃とバター」の動員

1930年代のドイツの歩みは、現代の産業動向を考えるうえで示唆に富む。フォルクスワーゲンの設立やアウトバーン網の整備は、単なる産業振興にとどまらず、国家維持のための重要な手段でもあった。アドルフ・ヒトラーは独裁的な手法で経済を掌握し、銀行に政府公債を引き受けさせて大規模な財政刺激策を断行した。その結果、1933年に25%に達していた失業率は1938年にはほぼゼロに下がり、一人当たりの所得はこの5年間で22%上昇した。1934年から1938年にかけての実質成長率は年平均で8%を超えている。
自国通貨での借入を生産性向上の投資に充てる手法は、当時のドイツに急速な復興をもたらした。株式市場も1933年から1938年の間に約70%上昇し、武力衝突が始まる直前まで堅調に推移した。
重要なのは、モビリティ産業が個人の利便性を追求する存在から、国家の持久力を支える軍事産業複合体の一部として扱われた点である。現在、各国政府が電気自動車や蓄電池、半導体の確保を安全保障の文脈で語り、巨額の資金を投じている状況は、過去の構造と重なる。国家が生存をかけて経済を動員するなかで、モビリティ産業は民生を安定させる「バター」と、実力を誇示する「銃」の両方を供給する役割を担っている。