「もう国際秩序は頼れません」 自動車産業に迫る“サプライチェーン不安定化の危機”──力がすべてを決める世界の現実とは? 米著名投資家の警告から考える
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著名投資家のレイ・ダリオ氏が警告する「戦後秩序の崩壊」により、自動車産業は効率追求から国家の生存を懸けた「銃とバター」の調達へと変質した。1930年代のドイツが年8%超の成長で国力を示したように、現代のモビリティも地政学戦の武器と化している。剥き出しの「力」が支配する新局面で、企業が生き残るための冷徹な資本・技術戦略を、歴史の循環から浮き彫りにする。
なぜ企業は「要塞化」へ向かうのか
ダリオ氏は、個人や国家の行動の根底には、自らの生存と富や権力への欲求があると指摘する。力がすべてを決める世界では、富は軍事力や貿易の支配力に直結し、財政的な支出能力こそが生存を左右する決定的要素となる。大国同士が互いに壊滅的な力を持つ状況では、信頼の欠如が囚人のジレンマを生む。一方が譲歩すれば弱さを示すことになり、対立はエスカレートの一途をたどる。
こうした局面で、企業は国家の生存戦略に従い、自らを守る防壁を築く。1941年の米国による日本資産の凍結と石油輸出の80%遮断は、経済手段が相手を圧倒する力として使われることを示す事例である。1887年にドイツがロシアの証券購入を禁じた例も、資本の流動性を止めることが致命的打撃になり得ることを示す。現代のモビリティ産業が供給網を縮小し、電池材料や半導体技術を内部に囲い込むのも、こうした外部からの資産凍結や供給分断に備える必然的な行動である。
これは、企業が国家の成功を優先し、個人の利益を二の次に置く集団主義的体制への傾斜を意味する。かつてのドイツや日本の例と同様、企業は形こそ保持しつつも、活動は政府の指示に従うトップダウン型のコマンド経済に回帰している。実力行使が合意や法律を圧倒する時代に、企業は自由な市場の担い手であることを捨て、国家の防衛能力を支える拠点として自らを固めている。