自動車CMの聖地――信号ゼロの「絶景ロード10km」をご存じか

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生月サンセットウェイ(長崎県平戸市・延長約10km)が、農業物流用の道路として整備されてから約50年。いまや大手自動車メーカーのテレビCMに頻出するロケ地となり、撮影効率と風景を掛け合わせた“走る資産”として注目されている。その一方で、地域に還流する仕組みはいまだ構築されておらず、景観を「使い捨て」にしないための制度設計が問われている。

公共投資が生む二次的価値

生月島の位置(画像:OpenStreetMap)
生月島の位置(画像:OpenStreetMap)

 生月サンセットウェイは、今でこそ「絶景ロード」として知られているが、出発点はきわめて実務的だ。1970年代後半、離島の農業と畜産を支えるため、物資を運びやすくし、農地にアクセスしやすくする目的で整備された。観光のためではなく、暮らしと仕事をつなぐ“生活インフラ”として生まれた道である。

 ところが、舗装が進むにつれ、水平線と断崖の稜線がそのまま視界に開ける光景が注目されはじめる。交通量が少ないことが幸いし、路面の状態も保たれる。結果として、農業用に造られた道が、景観そのものを引き立てる“舞台装置”へと転じた。用途が変わったわけではないのに、見え方が変わったのである。

 地方の道路整備は「採算が合わない公共事業」と批判されがちだが、この道の経緯は単純な失敗・成功の判断を許さない。建設から数十年を経て、観光・広告・映像といった別の産業領域が後から積み重なり、当初は想定されていなかった収益構造が生まれた。言い換えれば、古いインフラが“再利用”ではなく“再発見”されたケースである。

 CMロケ地の定番になったことで、撮影クルーの滞在や機材輸送、地元宿泊業や飲食業への経済波及が生まれた。SNSで画像や動画が拡散し、「あのCMの道」という認知が生まれる。観光客が実際に足を運ぶことで、地域ブランドの強化につながる好循環が回り始めている。

 一方で、課題がないわけではない。撮影が集中すれば環境負荷が増し、住民の生活動線と衝突する可能性もある。風景を資源として扱うなら、使わせるだけではなく“守る仕組み”もセットで考えなければならない。価値が可視化されるほど、持続の条件も問われるようになる。

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