自動車CMの聖地――信号ゼロの「絶景ロード10km」をご存じか
生月サンセットウェイ(長崎県平戸市・延長約10km)が、農業物流用の道路として整備されてから約50年。いまや大手自動車メーカーのテレビCMに頻出するロケ地となり、撮影効率と風景を掛け合わせた“走る資産”として注目されている。その一方で、地域に還流する仕組みはいまだ構築されておらず、景観を「使い捨て」にしないための制度設計が問われている。
経済と制度の接続

生月サンセットウェイは、偶然の地形と時代のインフラが重なって生まれた「直線の奇跡」だ。しかし、その価値は制度の外側に置かれたままだ。自動車メーカーの撮影地として使われ続けているにもかかわらず、地域に経済的な還元が仕組みとして確立していない。
この乖離は、地域側の怠慢ではない。風景を社会的な資源として扱う制度設計が欠けてきたことが背景にある。絶景は一瞬で話題を生むが、地域資源として持続させるには、運営・管理・再投資の枠組みが必要だ。法制度、財源、人材配置を含めた支え方の設計が問われている。
ここでいう「構造」とは道路の舗装や交通網ではなく、風景の価値を長期的に維持するための社会基盤である。撮影による経済効果を地域に循環させる仕組み、撮影ルールや費用負担の明文化、維持コストの公共と民間の分担。これらがそろって初めて、絶景は地域の生業として成立する。
映像は一度きりの消費で終わるが、風景は時間をかけて育てる資産である。問われているのは「どう見せるか」ではなく、「どう支えるか」だ。サンセットウェイの美しさをどう守り、次世代に受け渡すのか。そこに道筋が描けなければ、この風景は過去の資産に変わるだけだ。
いま必要なのは、制度・経済・文化の三層を接続し、「風景を使う」段階から「風景を育てる」段階へと発想を転換することだ。生月サンセットウェイは、その実験の入口に立っている。この議論は、全国の地域インフラが抱える共通課題を示している。