自動車CMの聖地――信号ゼロの「絶景ロード10km」をご存じか

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生月サンセットウェイ(長崎県平戸市・延長約10km)が、農業物流用の道路として整備されてから約50年。いまや大手自動車メーカーのテレビCMに頻出するロケ地となり、撮影効率と風景を掛け合わせた“走る資産”として注目されている。その一方で、地域に還流する仕組みはいまだ構築されておらず、景観を「使い捨て」にしないための制度設計が問われている。

制度的空白と地域負担

生月サンセットウェイ(画像:写真AC)
生月サンセットウェイ(画像:写真AC)

 日本では、風景を経済活動へと結びつける制度設計がまだ追いついていない。自治体が関与できるのは、道路の使用許可や撮影手続きといった“入り口”部分に限られる。映像作品によって地域の知名度が高まっても、その成果が地元に戻ってくる仕組みは存在しない。結果として、貴重な景観は「誰でも無料で使える背景」として扱われ、公共空間の経済価値は制度上ほとんど測定されていない。

 対照的なのが欧州だ。フィルムコミッション制度によって、撮影誘致から許可、利用料の徴収、そして地域への再投資までが一体で運用されている。企業は撮影を通じて地域インフラに貢献し、地域はその収入を観光や文化事業に還元する。景観を“公共財”として扱う制度の成熟度が、まさにそこで可視化される。

 一方、日本では撮影が「無料の宣伝になる」と歓迎されることが少なくない。だが、撮影が増えるほど地域が疲弊するという逆説を抱えている。交通規制や環境負荷への対応コストは膨らむのに、十分な対価は得られない。制度の欠落だけでなく、景観を共有財として扱う文化意識の希薄さも影響している。

 生月サンセットウェイも、こうした制度的空白を映し出す地点のひとつだ。地元は撮影に協力し続けてきたが、持続的な収益モデルを組み立てるところまでは至っていない。今後は、景観を公共資産として運用するためのルールづくりが避けて通れない。

 風景の価値を交通量だけで判断する時代は終わっている。映像やSNSを通じて知名度が高まり、来訪者を呼び込めば、地域の経済だけでなく“誇り”にも作用する。その影響を制度として測定し、道路保全や地域に還元できるようにすれば、景観は新たな社会資本として機能し始める。

 自治体と民間企業が共同で運用する「ロケーション維持基金」という仕組みも考えられる。撮影企業が利用料の一部を拠出し、それを道路維持や環境整備に回す。利用と保全が循環するモデルである。さらに、映像をデジタル上で二次活用すれば、現地訪問の動機づけにもつながる。

 行政、観光協会、企業、地域住民が「風景を持続的に使い続ける」という共通目標を共有できれば、地域資産としての風景はようやく評価される。経済効果だけでは測れない、誇りや文化的アイデンティティを支える資本として認識し直す段階に来ている。

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